第73話 尋問(2)

辺りは暗くなってきていた。

俺にとっては見やすい時間だ。

うつむいたままのルシャの顔を、上に向けようと頬に触れたら嫌がられた。


ズキッとした。

俺にれられるのも嫌なのか?

なんか……傷つくじゃねぇか。


金を払った女は、こんな嫌がり方しない。

まぁ、仕方ない。散々、嫌な目にあわせたわけだし。

嫌われても仕方ない。

怖がれてもしゃあない。

分かってる。

分かってるのに、ズキッと、する。



上目遣いで俺を見ているルシャを眺めた。

コイツこんな顔してたっけ?


こんなにじっくりルシャの顔を見たのは初めてのような気がした。

コイツけっこう美人……になりそうだな。


お手てつなぎ生活の時も、ウエスタ戦線に出たときも、夜はスヤスヤ俺の隣で寝やがって、ずぶといガキだと思ってた。


そんな子供でもない?か?

なんでガキだと思ったんだっけ?


そうだ。闇気やみけがないからだ。




もう夜なのに悪魔がいない。奴等の声も聞こえない。

なぜだ?

辺りに神経を集中させる。

やはりいない。

ここが教会だからか?

結界が張ってあるわけでもないのに。


人間のいるところには必ず影や闇がいる。悪魔がいる。

でもここにはいない。

おかしい。


ひょっとして、コイツか?

ルシャのせいか?


ウエスタ戦線で同じテントで寝た時も、コイツがいたから眠れたのか。

夜なのに悪魔がうるさくなかったから。


コイツ自身に闇気やみけがないだけじゃない。

ルシャの周囲にも闇気やみけがない。

悪魔がいない。


どういうことだ?


「どうしてそんなにジロジロ見るの?」

ルシャが怪訝けげんそうに聞いてくる。


「別に……。」

コイツには悪魔祓あくまばらいの能力でもあるのだろうか?

魔力を奪うし、光る翼で飛ぶし、コピー魔法まで使う。

あまりに能力が未知で多才すぎる。



「私をスパイだと思っているの?」

不安そうな顔をする。

俺がいじめてるみたいじゃないか。

こんな子供相手に。


「こんなマヌケで色気のない女スパイはいない」

「マヌケって何よ!!色気がなくて悪かったわね!」

ムッとして口をとがらせた。やっぱガキか。



奴隷の焼印を見せても、なにも言わない。言えないか?


「俺の秘密を見せたんだぞ。オマエの秘密も教えろよ」

「秘密見せてなんて、私は言ってないし!焼印とか分かんないし!」

プイッと横を向く。


「どこから来た?」

「記憶がないの」

ルシャの表情が曇る。


「記憶がないのに、封印されたことは覚えてるのか?誰に封印された?」

「部分的に覚えてないの」


「じゃあ、覚えてるところを話せ」

「どうしてイチさんに話さないといけないの!?」


「オマエは危険人物だ。軍を舐めるな。

『助けてくれてありがとう』なんて感謝してもらえると思ったのか?

今のうちに正直に言っとけ。ティアに殺されるぞ」


ルシャはまたうつむいた。

長い睫毛まつげがわずかに震えている。


「拷問されたいのか?地獄だぞ。ただ殺されるだけじゃ済まない。吐くまで死なせてもらえない。焼かれたら痛いぞ。俺は経験者だから知ってる。」


焼印のある手の甲でルシャのあごをあげた。

またビクッとして俺の目を見た。


「拷問始めるか?」


一瞬、ルシャの目に恐怖の色がよぎる。

でも一瞬だ。

痛みは怖いのだろう。でも死を恐れてはいない。


だから俺が怖くないのか。


逃げる素振りさえ見せない。チャンスはあったのに。

諦めているのか?生きることを。

こんなガキが?



焼印の痕でルシャの頬を撫でた。


ルシャがまたビクッと動く。目で俺の手を追っている。


小動物かよ?

なぜかおかしくなって、俺は思わず、笑っちまった。

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