第68話 封印の破壊

_______封印を解いてはならない。魔法を使ってはならぬ。もう二度と光翼をまとってはならぬ。_________



連れ戻されるくらいなら死を選んだ方がましだと、兄上はおっしゃっていた。

私が死ぬのはかまわない。

でもシスターや子供たちはどうなるの?

私に生きる場所を与え、受け入れてくれた愛する人たち。


私の大切な人たちを守ろうと戦っている、イチを、ティア様を、私は……見捨てるの?


私はみんなに生きていてほしい。



両手を胸に当てた。

意識を心臓の印に集中する。


緑の光を放つ球形の封印がその姿を現した。

美しく複雑な魔法紋様が球の表面を流れるように動く。


きれい。


兄上の魔力を感じる。

いつも私を守り、励まして下さっていた。


「兄上、お許しください。」

私は念を込め、術を破った。


パキーーーンンッ!!


緑のガラスのような破片がキラキラと飛び散っていく。

兄上の温かい魔力が小さくなって消えていく。


破片のひとつひとつが愛しい。


もう兄上を感じることはできない。

一生。



急激に魔力が高まっていく。

体の隅々にまで満ちていく力。

心と魂にまで行き渡っていくこの高揚感。


私に何ができるか分からない。

でも行こう。

もう後戻りはできない。




***




「なんだぁ?」

強大な魔力が急に現れたような?

どこだ?辺りを見回す。

「おかしい。誰だ?」

知らない魔力。

だが禍々まがまがしいものではない。

むしろ……神々しいと言えるほどだ。



「イチ……。さっさと、あの馬鹿……をれ。」

ちらりとティアに目をやる。

出血がひどい。体を横たえたままだ。


ズタズタのくせして、カッコつけやがって。

「俺をかばうからだ、バカヤロー。」


広域シールドが弱まっている。

だがシールドを張ること自体はまだやめない。

ティアの根性は悪魔並みだ。


市民には被害を出さないってか?

俺の親父の言うことだけは聞くんだよな、コイツは。



ジェラーニの詠唱する声が聞こえる。

―――雷神よ来たれ。風神よ来たれ。…


「野郎……デカい呪文で決める気か?」


息を整えなおす。

ハァハァ。ふぅーー。


「やってやろうじゃねぇか。馬鹿殿下!」


呪文の集中に入ろうとした時。


いきなり“ふわぁ”と白い光が俺を包んだ。

「うわっ!なんだこれっ!?」


横からルシャが飛び込んできた。

「イチさん!!」

「ハァ!!?オマッ!?エ!?どっから来た!?」


俺の顔の真ん前でルシャが……浮いてる。

俺の頬を両手で挟みながら言う。

「翼をあげる!飛んで!」

ルシャの背中に二枚の翼が揺れていた。

正確には翼のような形をした白い光?


「ハァァーーーー!?」


俺の背中に灼熱感が走った。

「何だ!?」

光る?翼?


「イチさん!あなたなら飛べる!ティア様は任せて!」

フワッと体が浮遊する感覚。

「なんじゃこりゃぁぁーー!!!??」

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