第67話 ティア様とルシャの協同攻撃

「ふぅー。やれやれ。

ルシャさん、君の力には驚かされたよ。

まさかコピーマスターが本当にいたなんてね。」

マインティア様が私の方に歩み寄って来て苦笑いしている。


その声は芝生に座ってドーナツを食べたあの時と同じだ。


お腹のあたりが血に染まっている。

しかしまるで痛みを感じていないかのように話す。



「ストラウト様、血が…。」

「あぁ、ティアでいいよ。君は特別だ。」

「え?」

こんな時に。何を言っているの?


「ちょっと協力してほしいんだけど?いいかな?」

小首をかしげて、天使のように微笑む。

この方はあっという間に人を魅了する。


「あの悪魔の腕はかなり丈夫なようだ。

普通、地上にはいないタイプだね。

あの男を憑代にして地上に留まっている。」


悪魔の腕?

憑代?


「憑代である馬鹿殿下を殺さないと、あの悪魔の腕は再生してくる。」


馬鹿殿下?毒舌だ。


「イチが帰ってきてくれたし、馬鹿はイチに任かせるとして。

私もとりあえず腕の数を減らすくらいはしないとね。

私の魔力もそろそろキツイし。


そこでお願いなんだが。

君に私の氷結呪文で悪魔の腕を凍らせてほしい。


動きを止めてもらっている隙に、私が腕を完全に破壊する。

2本と言いたいがまずは1本だ。欲張るといけない。どう?できる?」


出血がひどい。でも戦うことをやめない。

私が止めても、この人はやめない。

冷酷でありながらも市民は守るの?

よく分からないお方だ。


「たぶんできます……。でも……距離があると私のコピーではあまり効果がないかと。」

「そのようだね。私が腕を引きつけてこよう。」

「まぁ、気軽に試してみようじゃないか。」

「気軽?」

「ダメもとだ。」

「ダメだったら?」

「イチが何とかしてくれるさ!」


まるで何かの遊びのように言う。

それだけイチを信じているの?



***



―――散雷!

ダダーーーーーン!!



ジェラーニは俺の放った悪魔を四方に散らせた雷撃で消しやがった。

「チクショー。」


「バーレント!親の七光りで好き勝手しおって!もう終わりだ!」


―――散雷弾!!

ダダダーーーーーーンッ!!

上空から雨のように雷を浴びせかけてくる。


「テメェにだけは言われたくねぇ!バカ殿下!」


雷撃を落とされまくると不利だ。

悪魔の力も合わさって、威力は増してやがるし。

「くそッ。」

地を這う悪魔だけでは、よけるのに精一杯になる。

攻撃の隙をつかめない。



ジェラーニの周りに黒い塊が動いて、また形を作り出す。

「腕が!?」

黒い腕、破壊したと思ったのに。

再生するのか?


ジェラーニのやつ、イカれてる。

自分の体に悪魔を住まわせるなんて。

悪魔使いでもやらねえ。


だが自分の意思は保っている。取り憑かれているのとは違う。

どうやったんだ?あいつにこんな術を生み出す才能なんてない。

誰が黒幕だ?




「イチ!悪魔の腕は私が引きつける!お前はジェラーニを叩け!」

「ティアーー!ボロボロ男は下がっとけ!!」

「ジェラーニ本体を叩かないとあの悪魔、再生するぞ!」



ジェラーニはかなり上にいる。俺が飛ぶの苦手なのを知ってやがる。

腹立つな。見下ろして笑ってやがる。

「飛ぶか、しゃあねぇなぁぁ!!」

―――わが身を包め。飛翔闇!!




***



イチの体を無数の黒い鳥のような影が囲むと同時に、彼は猛烈なスピードで飛び立った。


ゴオオォォォーーーー!!


風を切る音がティア様の飛ぶ様子とはまったく違う。

速い!


黒い腕に斬りかかりながらイチは呪文を放った。

―――烈黒弾!!

ドオォォーーーン!!

鈍く重い爆発音。


すかさず、ティア様がもう片方の黒い腕に剣で斬り込み、1本はね飛ばす。



再生したばかりの腕は今までより、確実に弱くなってる。

切り落とされても飛び回り、ティア様を追いかけてくる。


やるなら今だ。

ティア様を追いかけている黒い腕に集中する。

私のすぐ上を飛びすぎようとした時、


ビキ、ビキ、ビキッツーー!!


悪魔の腕は大きな氷に包まれて落ちていく。

その時を、ティア様は逃さなかった。


―――走る風より来たれ豪雷の者たちよ。我が神剣にその姿を変え給え。


2本の剣を交差しながら呪文を唱える。剣が青く光り、稲妻をまとい始める。




―――豪雷剣斬!!

強烈な光。

ダダダダァーーーーーーーン!!


「雷撃!?ティア様は氷呪文だけじゃないの!?」


凄い。


湯気のような白いモヤがあたりから晴れた時、悪魔の腕はもう見えなかった。


ティア様は地上に降り、肩で大きく息をしている。

限界だわ。これ以上魔力を使うと、死ぬ。




イチは!?

見上げると、イチの足を悪魔の腕がつかんでいる!

「イチーーーー!」


「放しやがれ!!クソ悪魔!」

「ハッハッハーーー!!では放してやろう!!」

ジェラーニは地上に向けて、イチを豪速で投げつけた。


「キャァーーーー!イチ!!」

イチが墜落する!!

ドクン!自分の胸に痛みが走る。



とっさにティア様が飛んだ。

イチの大きな体を受け止めたものの瓦礫に激突する音が響いた。

バキ!バキ!バキーーーーー!!!


「イチ!ティア様ーーー!!」

死んでしまう。二人とも!!

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