第49話 魔女とホテルとメガネ君(1)

朝、目が覚めたら知らない天井が見えた。

知らない部屋、知らないベッド。


寝返りをしたら、知っている魔女の顔が目の前にあった。


なにぃぃーーーーーー!!!!

う、嘘だろおぉぉーーーー!!!


一気に目が覚めて、とび起きた。


「め、眼鏡はどこだっ!」


強度の近視の俺。

辺りを見回すが、ぼやけて分からない。

特注品で「エリック」とネームも入れてある、俺の眼鏡!


サイドテーブルの上の黒い影に気づいた。

ようやく探し当てた眼鏡をかけてよく見てみる。


間違いない。ウィンクル・ポッドだ。


俺!素っ裸じゃないかー!?

彼女は下着姿で眠ってる。


な、何があったんだーーーー!!!

まさか、まさか、俺は?この女と!?


まったく覚えていないーーー!!


***



昨晩は士官学校の同期会があった。軍で働いているヤツ数人との気軽な飲み会で、御前試合の優勝祝いをしてくれた。上官や部下の愚痴で盛り上がって、二次会に突入したとこまでは覚えているが……けっこう飲んだ。


記憶がとんでる。


でもなんでこの女がいるんだ?コイツは同期ではない。

飲み会にも、もちろん来ていなかったはずだ。


俺より若く見えるが、エニセイア司令官と双子だと聞いている。


つまり58才。


嘘だろ!?どう見ても27才の俺より若い。

寝顔はいつもよりもさらに幼くみえるくらいだ。


毛布から出ている肩からブラの黒いひも(正式名称を知らない)がずり落ちそうだ。

チラリと見える胸の谷間。


胸…大きいな。

はッ、いかん!!


ふ、服!俺の服はどこだ!?部屋を見渡してもない!

執務の帰りにそのまま店に寄ったので、軍服のままだったはずだ。

軍服を紛失するとマズい。


素っ裸で探し回るとちゃんとクロゼットの中のハンガーに掛けられていた。

下着類は綺麗にたたまれてトレーに置かれている。


俺がこんなに綺麗にたたむはずがない。彼女がたたんだのか?


俺の軍服のとなりに、彼女の服も掛けられている。

黒いレースのタンクトップみたいなやつが揺れている。


スゲーの着てる……。


はッ!見ている場合じゃない!


急いで着替えると、俺は逃げるように部屋を出た。

はぁ、はぁ、はぁ。

朝からめちゃくちゃ疲れている。


起こして事情を聞くべきか?

そんな勇気は到底持てなかった。


ここはどこだ?ホテルの一室のような?

下のロビーに降りると見覚えがあった。

大通りにある高級ホテル「ユトピア」だ。

使ったことも何回かある。


支払いは男である俺がすべきだ。フロントで金を払ってホテルを出た。




妙に情けない気分になる。

やはり戻って、なぜ裸で一緒に寝ていたか…聞くべきだ…よな。

いや聞くまでもない…よな?


謝罪すべきなのか?こういう時は?

なんて謝る?

すみませんでした?

記憶にございません?


なぜあそこでああしていたのか、まったく記憶がない。

記憶を懸命にたぐり寄せる。


そうだ!ジョイセントだ!二次会にはジョイも来ていた。

それとなくジョイに聞いてみよう!




大通りを第五の基地の方へ急いでいると、ジョイセントの姿が見えた。

ちょうどいいところにいた!


女と一緒だ。

でもかまわない!声をかけた。

「ジョイセント!!」



***



「あー昨日の夜?エリックさ、酔いつぶれちゃってね。

エリックは筋肉質で重いからさ、困ったなーって思ってたんだ。

そしたらさ、偶然通りかかったウィンクル叔母様がおんぶしてくれたんだよね!

軽々と!」


「オイっ!女におんぶさせるな!カッコ悪いだろ!」

「初めはお姫様だっこだったよ?マシだろ?」


カッコ悪すぎる!!


「そ、それからどうした?」

「知らないよ。」

「なぜ知らない!?」

「ウィンクル叔母さまがエリックを独身寮まで送ってくれるって言うからさ。まかせた。」


まかせるなよっ!


「僕、この子と消える予定だったし。」

そう言って隣の女に笑いかけた。


この無責任男めぇぇ!!!


はッとする。無責任は俺なのか?


やはり、ここは素直に謝罪だ。

女性におんぶしてもらったあげく、裸で一緒に寝ていただけで十分に悪いことだ。

迷惑をかけたのは確かなわけだし。


ホテルの部屋から女を置いて逃げ出すなんて騎士として、いや男として、恥ずべき行為だ。


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