第50話 魔女とホテルとメガネ君(2)

昨夜、ワタシは帰りが遅くなってしまった。

新しく手に入れた禁書の解読を王立図書館で頑張っていたから。

媚薬のことがのっていたので、ついやる気が出てしまった。ウフッ。


ワタシは基本的に暇だ。

仕事以外にやることはない。

遊びに行く友達もいない。


普通の人より人生が長いから、調べ物だけは徹底的にすることにしている。



魔女帽子をかぶって歩いていると、ジロジロ見られることは多い。

でもからまれることはあまりない。

魔女の腕力と魔力が強いことはみんな知っているから。



でも昨晩は珍しく、酔っ払いにからまれた。

さすがに男の人をおんぶして、スタスタ歩いていたらね。



***



エリックは一軍の士官寮に住んでるってジョイが言っていた。

「一軍の駐屯基地にはちゃんと24時間年中無休で門番がいるし、基地の前まで運べば何とかしてくれるかなー?」



「なんだぁ?ハハハー!男をおんぶしてるのか?」

「馬鹿力だな!魔女帽子かぶってるだけのことはある!」


四人の酔っ払い男が、酔い潰れて眠るエリックと私を取り囲んだ。


ウザい。


一人では何も言えないくせに、群れると絡んでくるんだ。

こういう人たちは。


「おい魔女!魔法を見せてみろ!」

「ハハ!アハハハーーー!」


楽しそう。

簡単に殺せるけど、第五に迷惑はかけられない。


「魔女!お前は何歳なんだよ?」

「100歳くらいじゃねー?」

「ハハハ!ハハハ!」


酔った男たちの大声で、エリックが目を覚ました。


「おい貴様!女性に年齢を聞くなんて!失礼だろ!謝れ!」


相手を指差して怒ってくれている。

エリック、おんぶされてなかったらかっこいいけどね。ふふ。


魔女に対しても、騎士道精神を発揮してくれている。

「女性に優しく、品行方正であれ」

小さな頃から、そう教わってきたのね、真面目ちゃん。



「魔女におんぶされて、何言ってんだぁ?コイツー!」

「ワハハーー!」


エリックが下に降りようと暴れる。

「おろせっーー!!一発殴ってやる!」


「エリック!ほらほら、じっとして!もういいから!」



ハハハ!

ハハハ!ハハハ!

ハハハ!

ハハハ!ハハハ!


酔っ払い男たちの笑い声が響く。


今まで生きてきて、たくさんの人にさげすまされた。


ちょっと他の人より体が丈夫なだけ。

ちょっと他の人より魔力が強いだけ。

ちょっと他の人より長く生きるだけ。


みんなと同じ人間なのに。


なぜ魔女と呼ばれるの?

なぜこんな帽子をかぶらないといけないの?


帽子をかぶらないと死刑にされる。

お父様とお母様に恥をかかせる。

ローランドが出世できなくなる。



好きでこんな風に生まれたわけじゃない。



イライラした。

焼いちゃおうかな?みんな燃えればいい。

私も灰になれば、楽になれる。



―――風波!

ビュッ!!


「うわっ!?」

酔っ払いたちが吹っ飛んだ。


「うるさい奴らだ!バーカ!」

「エリック!?」


あらら、普段あまりにお行儀がいいから、キレたらヤバいのかな?

ふふふっ。面白い人。


酔っているのに、魔法を使って疲れたのか、また眠り込んでしまった。


奴らを燃やすところだった。

ほらね、魔女は怖い。

「だから魔女帽子をかぶらせないとね」って言われてしまう。


これまで生まれきた魔女たちも、差別に耐えかねて暴れたんだろうな、きっと。

ワタシにはまだ、ローランドとジョイがいてくれる。

二人が生きてくれているうちは、マトモでいないとね。


涙がにじんできた。泣きそうだ。

エリックをおんぶしているから、目をおさえられない。


大通りで泣きながら、男をおんぶして歩く魔女。

そんなの、あっという間に噂が広まってしまう。

ローランドに迷惑をかけられない。


目についたホテルに入った。


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