第34話 ティア様のルシャ観察

軍総司令官の仕事は忙しいが興味が勝った。

イチが怪しい女を殺さずにいる。

前に色仕掛けできた女スパイは、容赦なく首をはねたのに。(ヤッた後で。)


よほど美人なのだろうか?


***


閉店間際のドンドコ秘薬店に行ってみた。

私は総司令官として顔が売れている。

念のため幻術を使って老紳士のフリをすることにした。


「いらっしゃいませ!」

「おじいさん、こちらへどうぞ!」とイスを引いてくれる。

この娘か?

「ありがとう。お嬢さん。」

「こんな遅くに、おじいさんお一人ですか?危ないですよ。」

「あぁ、どうにも腰が痛くてね。薬湯を飲まないと眠れそうにない。」

「いいのがありますよ!」

「お願いするよ。」


気持ちのよい接客で、テキパキと仕事をこなす。

あと数年すれば、いい女になりそうだが。

普通の街娘……だな。


闇気やみけがない」とイチがやたらと言う。

闇気やみけ」という言葉は悪魔使いたちが使う独特の表現だ。

たしかに優しい娘だとは思うが。


やっぱり殺しておくか?不安因子は早めに芽を摘んでおかないとな。

イチは妙に甘いところもあるし。


「おじいさん、お宅はどこですか?腰が痛いなら買いに来るのも大変でしょう?

薬の宅配サービスも始めたんです。」


「ほほう。それはいいね。」

「私、西の教会に住んでるの。そこで注文してくれても大丈夫ですよ。」

「ありがとう。」



「まだやってるかー?」と第五のやつらが入ってきた。

あれは確か……イチの部下の……。



「アジカさん!皆さん!来てくれたんですか?ありがとうございます!」

「おう!嬢ちゃん、元気か?イチスペシャル五つくれ。」

「はーい!」


イチスペシャル!?なんだそのネーミングは!?

フフっ、笑える。



「体力の回復にはこれが一番!イチさんには、秘密だよ〜。」と娘が笑う。


「死んでも言えねぇーー!」

強面の騎士達も心底楽しそうに笑っている。


第五の騎士達が彼女になついている。

イチに鍛えられている第五のやつらはバカじゃない。

その彼らが心を許している。



闇気やみけがない、という概念は、精霊使いである私にはよく分からない。

邪気がない、ということか?

それとも純粋であるとでもいうべきか。


彼女の不思議な……魅力なのか?

イチ本人は否定していたが、彼が興味を持っているのは間違いない。


始末するのはやめとくか。

とりあえず。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る