第35話 イチの弱点

私は困っていた。


「ルシャちゃん!緊急配達!行ってきてー。」

ドンドコさんに夕方のおつかいを頼まれたのはいいのだけれど。


まだ明るいからと油断した。

三人組の若い男に絡まれてしまった。

男たちはもう酔っぱらっている。


「私、お金持ってないです。」

「ちょっと二軒目に付き合えよ。」


困ったな。早くお得意様の娼館の皆様に美容の秘薬を届けないと。

金曜日は稼ぎ時で、女の人たちは気合をいれる。

美容系の秘薬は必須アイテムだ。

ドンドコ秘薬店もかき入れ時、こんな不良の相手をしている暇はないのに!


男の一人が私の手首をつかんできた。

「あっちにいい店があるぜ。」と路地裏の方へ引っ張ろうとする。


「やめてください!」

そんなやりとりをしていると、見知った顔がスタスタと目の前を通り過ぎようとする。


「イチ……さん!ちょっと!知らん顔で通り過ぎることないじゃないですか!」


「ハァ?なんだ?またオマエか?何の用だ?」

「何の用って、困っている女子を助けようと思わないんですか!?」


「何か困ってるのか?」

「この人たちに絡まれてるんです!」


「ふーん。警察よべや。」と行こうとする。

「それでも騎士なの!?」


「俺は国防専門なんだよ。じゃあなー。」

「最低騎士!」


「騎士ぃ?あのオッサンがかぁ?」

酔った男の一人がヘラヘラと笑った。


「オッサンだとぉ?」

イチのこめかみがピクピクしている。


キター。NGワード。

イチは「オッサン」系の言葉を嫌う。


私はトドメのひと言を放ってやった。


「あのオジサンが第五のイチよ、首を取って名を挙げてみなさいよ!」

「だれがオジサンだ!?」


「第五ぉ?あいつが?丸腰だぞ。騎士が丸腰で歩くかよ!嘘つくな!」

「青くさいガキが!うるせぇ!」

「なんだとぉ!」


男の一人がイチに殴りかかろうとした。

イチはあっさりよけ、足でヒョイっと払った。

男はつんのめって顔からこける。


「オッサン何すんだ!」

「オッサンッ!?」


キレてる。キレてる。フフフ。


仲間の二人が同時に襲いかかった。

よりキレちゃったイチは一人の顔面にヒジを、もう一人のお腹にヒザをガツンとやってすぐに終了した。


この人、魔法だけじゃないんだよね。良かった良かった。

これで配達に行ける。


「首を取れとかよく言うよな?ひでぇ女だ。俺の名前を勝手に使うな。

余計に絡まれるぞ。」


「恨みを買ってるんですか?」

「俺は買ってない。奴らが勝手に売りつけてくるんだ。なんでなんだ?」

「原因を分かってないのが一番の原因ですね。」

「オマエけっこうズケズケ言うようになってきたな。っていうか俺についてくるなよ。」

「私もこっちなんです!」


そして着いたのが、同じ娼館だった。


「配達ってここかよ?」

「こちらはお得意さんなんです。」


「何届けんの?」

「ブラン地方産みどりしまヘビの炙り焼きです。」


「ヘビ!?マジか!?」

「ここの女の人はみんな食べてますよ。化粧ノリが良くなるって評判なんです。」


「ヘビかじってる女!?萎えるじゃないか!」

「ヘビはお嫌いですか?」


「あんなもん食うか!俺はゲテモノは大嫌いだ!」

「娼館の方は皆様はお好きですよ。赤イモリの粉末はアンチエイジング、青花カマキリの卵は美白に、あと、モンゴン産黄色大トカゲの燻製なんかは二日酔いに効果が……。」


「もうやめろ!俺はトカゲが一番嫌いだ!」

「秘薬店に飲みに来るのに?お酒にも入ってるのありますよ?」

「マジか!?」

「お酒につけて効能を引き出すんです。」

「ウオェー!」

「全部のお酒じゃないですけど。

魔力回復系の効能酒は、やっぱり爬虫類が一番ですよね。」

「ゲロ吐きそう。」


「美容にも良いので、一般女性客にも密かに人気ですよ。」

「女はみんな食ってるのか!?キスもできなくなるじゃないか!俺が不能になったらオマエの責任だからな!」

「ご自分の不摂生とお年のせいでしょ?」


「テメェ!誰に向かってそんな口聞いて、おい!」

「私は配達があるので裏口に行きますね。失礼します。」


秘薬酒で魔力の回復をしてるのに、材料も知らなかったのかしら?


イチにも苦手なものがあるなんて意外だわ。

生でかじりそうな顔してるのに!

ふふふっ!

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