第17話 美貌の軍総司令官

「ノーシア王国 魔法騎士軍 中央司令本部」 

立派な看板が掲げてある。王宮の次にデカい建物だ。


中にいる人間の半分は無能。

前は九割が無能だったからまだマシか?


マインティア・ストラウトが20代で軍総司令官の座に就くという異例の出世を果たし、異常なスピードで改革を推し進めた。


改革についてこれない奴はたくさんいる。

若い総司令官を妬み、恨んでいる奴も多い。


しかし当の本人は一向に意に介していない。

ヤツにとって総司令官になることなんて、まだ「ゲーム」のスタートにすぎないからだ。



***


総司令官室のドアをノックする。

「第五魔法騎士軍 大佐 イチ・ヨナクニ・バーレントであります。」


「久しぶりだね、バーレント。」

いつも通り、優雅な貴公子の微笑を見せた。



金の髪、深い青の瞳。

士官学校の同級生として初めて会った時には、すでに学校一モテる美少年だった。

今となっては文句のつけようがない眉目秀麗な総司令官。

見た目は完璧だ。


だがしかし中身は、鬼畜。

いや総司令官としては鬼畜の方がいいのかもしれないな。


俺はコイツの鬼畜ぶりが嫌いじゃない。

面白いから。

ティアの無能な上官どもはよく病死、または戦死したものだ。

おかげで軍が綺麗になった。



ストラウト総司令官は秘書官に目配せして退出させた。


足音が遠ざかってから、ため口にかえる。

「なんだよティア、わざわざ呼び出して。」 


「ウエスタ連邦との国境付近のジャングルに奴が出てきている。

悪魔使いの敵将ゼートが。」


「久しぶりじゃねぇか。」


「イチが喜ぶ情報だと思ってね。」

青い瞳が楽しげにこっちを見る。



「あぁ、嬉しいねぇ。ウエスタ担当の西方司令官は何してんだ?」

「悪魔使いは相手にしたくないのさ。ジェラーニ王弟殿下は怖がりだからね。」

「ちいせー男だなぁ。王弟殿下様はよ。西方司令官なんてもったいない。引きずり下ろせよ。」

「降格させるわけにはいかないよ。」と肩をすくめてみせる。

「彼はいちおう王族だしね。斥候の報告を後で受けてくれ。」

「分かった。」


「ところで、若い女の子と楽しく過ごしているそうじゃないか。羨ましい限りだ。」

「もー知ってんのか?」


「何かあったのか?」

少し真面目な顔で聞いてくる。


「どーせ知ってるんだろ?」


「君の口から聞きたいんだよ。」

頬杖をついて顔を傾ける。金の髪がサラりと揺れた。

容姿端麗な貴公子の外見に騙されて、あっさり殺された奴は数えきれない。


「女を口説くような調子で言うな。キモイ。」


「せっかく心配してるのにさ。今回はやめておくか?」


悪魔使いには、悪魔使いをぶつけるのが鉄則だ。

「俺しかいねぇだろ。」


「言うと思ったよ。念のため直接会って確認したかっただけだ。

今度、かわいい彼女をぜひ紹介してくれたまえ。」


「彼女と違うしな!」

「なんだ、まだヤッてないの?」

「俺はガキを相手にするほど飢えてないんだ!」


ティアはなぜか面白そうに「ふーん。」と言った。



***



「いくら何でも、今回イチ大佐が出撃するのはマズイですよ。

魔力も十分に戻ってないのに危険です。」

ジョイが不安そうな顔をする。


「少しは考えたが、この機会を逃したくない。

ゼートの奴にはウチのが何百人も殺されている。この機に仕留めたい。」


「それは相手も同じでは?イチ大佐を仕留めたいと考えてますよ。

戦局が厳しくなる可能性が高いです。魔法なしでは切り抜けられません。」


「ルシャを連れていく。」


「そんな無茶な!彼女は一般人です。それにもし彼女が死ねば、魔力が永遠に戻らない可能性だってあります。今そこまで危険を犯す必要があるでしょうか?」


「ジョイ、俺を心配してくれるのか?いいヤツ!」

「ようやく気づいてくれました?」



「ルシャは一番後方の補給隊におく。前線には出さん。

ジョイお前も一緒に来てくれ、最前線に出てる俺と後方のルシャを移動門ゲートでつないでもらう。基地の留守番はウィンクルに任す。」


「ルシャちゃんが了承するでしょうか?戦場について来いなんて。」


「金で動かないか?あのガキ。やたらと稼ぎたがってる。家畜を購入したいらしい。

ジョイ、うまいこと交渉してくれ。オマエの方がルシャに信用されてる。」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る