第16話 グラウンドマスターの植物魔法

 次の日、イチには用事があるようだった。


「イチ大佐、ストラウト総司令官より招集がかかっています。」

「なんだ?このクソ面倒な時によ。」

「オイ、手を離していい。司令本部にオマエは連れて行けない。」


 ラッキー!少しでも離れられると嬉しい!


 ***


「ルシャちゃん、大佐がいない間は羽を伸ばしましょうか。

 基地内を散歩でもしましょう。


 どんな訓練をしてるか分からないですから、危ないので一緒に行きますよ。

 めったに入れない施設ですし、ご案内しましょう。」


 基地の敷地は門から見えるよりもずっと広いらしい。

 奥の小高い丘のむこうも訓練場だと、ジョイさんが教えてくれた。


「攻撃魔法の訓練もしますからね、かなり広いですよ。迷うと遭難します。」

「ジョイさんは訓練に出なくて大丈夫なんですか?」

「サボりです。」

「えー?中隊長さんが?」

「ふふ。実は攻撃とか苦手で、落ちこぼれなんです。」

 そう言って蕾がついている道端の雑草を摘む。


 ジョイさんがじっと見つめると、フワッと白い花弁が開いた。


「花が咲いた!?スゴイ!」

「僕は地属性、グラウンドマスターだから、これくらいです。」

 そう言いながら花を手渡してくれる。


「植物を生長させるなんて!こんな魔法があるんですね!」

「ハルシオンという花ですよ。雑草にしてはきれいでしょう?

 ここはだれも手入れしないんで、あんがい自然豊かなままなんです。

 鳥や動物もたくさんいますよ。」

「ジョイさん、庭師になれますね。」

「もう騎士ですからねぇ。」と苦笑いする。


「退役するまで生きていたら、庭師も良いかもしれません。」

「戦場でもお花を咲かすんですか?」

「クスクス。僕の仕事は移動門ゲートを作ることです。

 空間を移動できる移動門ゲートを創生する、ゲートマスター専門。

 攻撃呪文は下手だから、移動担当というわけ。」


「攻撃が苦手なのに、どうして軍に入ったんですか?」

「そういう家系だからね。」

「ジョイさんは、お坊ちゃんなんですか?」

「ははは。まぁいちおう貴族ですよ。」

「それにしては優しいですね。貴族の人たちは、冷たいイメージがあります。」


「ふふふ、イチ大佐も貴族だよ。」

「えー!?見えない、全然見えない。

 士官学校出てるって言ってたの本当だったんですね。」


「王侯貴族じゃないと、士官学校は入学できないんです。

 成績も良かったらしいですよ。二番で卒業したって。」

「二番?一番は誰なんですか?」

「軍総司令官のマインティア・ストラウト様です。二人は同期なんだよ。

 年はイチ大佐の方が二つ上だけどね。」



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