第12話 夜のイチ、朝のイチ
夜になった。なってしまった。
一緒に寝るの?イチと?二人きりで?
お手てつないだままで!?
嫌だーーーー!!
「なんだその目は!俺は夜に仕事をする。
そこの長椅子をこっちまで持ってきてやるから、オマエは横で寝てろ。」
イチは右手でペンを握り、左手は私の右手とつながれる格好で仕事を始めた。
この人は夜の方が優しいような気がする。
表情も柔らかい。
「どうして夜に事務仕事をするんですか?」
「俺の勝手だろ。」
「まぁそうですけど。字を書けるんですね。」
「オマエ俺のことアホだと思ってないか?
これでも一応は士官学校を卒業してるんだぞ!」
「そうは見えないですね。」
「いちいち腹の立つガキだな。」
ランプの小さな明かりをつけて、書類にサインしたり、ハンコを押したり。
サクサクと片づけているようだった。
この人がペンを握るところなんて想像できなかったな。
まぁ士官クラスの人なんだから、イロイロお仕事大変なのかも?と考えているうちに眠ってしまった。
***
俺は書類の仕事が嫌いだ。
だが今夜は珍しく早く片付いた。
あれ?今夜はやけに静かだな。
いつも夜になると悪魔が騒いでうるさいのに。
なぜだ?
ルシャがいるからか?
しかしコイツ案外ずぶとい。
よく俺の隣で寝れるよな。
グッスリと眠る顔。ガキだな。
人と手をつなぐなんて…今まであったっけ?
ハァー。いつまでこんなこと…やらなきゃなんねえんだ?
俺は机に突っ伏した。
勘弁してくれ。
***
早朝、目が覚めると、イチは机に突っ伏して眠っていた。大きな背中。
いつも目つきが悪くてコワイ顔してるのに、寝顔が意外とかわいい。
ふふふ。笑いをこらえるのが大変だった。
朝食がまた素晴らしい。
ビュッフェ形式で高級ホテルにも引けを取らない見た目と味。
トロリとしたスクランブルエッグ。
焼き目がいい感じのソーセージ&ベーコン。
色とりどりの新鮮野菜サラダ。
焼きたてのロールパンの香りがたまらない。
体にしみるコーンポタージュをじっくり飲むと元気がわいてくる。
ジングお爺さんの料理の腕は本物だわ。
イチも私に付き合って朝の食堂に来たけど食べない。
まぶしそうな顔をして不機嫌。
紅茶だけ飲んで、ウトウトしている。
朝はかなり苦手みたい。
今日もエロジジィ院長のところに行くのかと思うと憂鬱だなぁ。
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