第7話 王立医療院でのキス実験(2)

「んんっ!んんー!?」ともかく馬鹿力で全く抵抗できない。

院長とジョイセントさんの目の前で、濃いぃキス。


何考えてるの!?


「おーっ!若い頃を思い出すのぉ。」


院長!助けて下さいよ!


「お若い頃はお盛んでしたか?」


「バカにするなよ、ジョイ。今でもワシはお盛んじゃ。」


「ははは、尊敬しますー。」


ジョイセントさんっ!止めてく下さい!


私が心の中で叫んでいる間も、バーレント大佐は容赦ないディープキスで舌を乱暴に絡めてくる。


この人たちにとって、キスは大して重要な行為ではないらしい。

好きでもない人とするなんて。嫌だ。苦しくてたまらない。

酸欠と恥ずかしさで頭がクラクラする。

私は必死に大佐を蹴りつけた。

ポコっ!


「痛っ、またこのガキは!」


ようやく唇が離れ、私は肩でハァハァと息をした。


「イチ大佐ぁ。キス長すぎますよ。女の子の肺活量を考えてあげないとー。」


そんなアドバイス、今いる!?


「ヨシ、もう一回、火をつけてみろ。」と院長が言う。


立ったままで大佐が意識を集中すると、着いた!炎が!

さっきよりずっと大きく。力強い炎!


信じられない。

でも、しばらくするとまた消えてしまった。


バーレント大佐は元のソファーにもたれかかった。

「やっぱりこのガキか。」


「ふーむ。こんなケースは初めてじゃ。」


「ジジィ、調べろよ。」


「まったくもって興味深い。」

院長も変態っぽい。第五関係の人は常識が通用しないんだ。


「お嬢さん、今まで人の魔力を奪ったことはあるのかい?」


「そんなことないです。そもそも魔力のある方とお会いする機会もありませんし。」


「うーむ、そうじゃな。市民が魔導士に会う機会はそうはないのぉ。魔力を奪われたらそこそこの騒ぎになるはずじゃし。奇妙なのは、魔力が戻ることじゃ。これは聞いたことがない。」


「ちょっとだけだ。すぐ尽きる。」


「基地にいた時はまったく着かなかった火が、さっきのキスの前にも少し着いていたじゃろ。キスだけが魔力の返還条件ではないのではないか?時間がすぎると回復するとか?」


「あっ!馬車でこちらに来るとき、大佐はルシャちゃんをかかえてましたよ。つまりルシャちゃんに触れていた。触るだけでも返還されるのではないでしょうか?」


「ほう、面白い仮説じゃな、ジョイ。

よし、イチ!しばらくお嬢さんと抱き合ってみろ。」


また大佐がめんどくさそうに立ち上がろうとする。


私は慌てた。

「嫌です!」


「お嬢さん、協力してやってくれんかのぉ?

こいつの魔力がなくなるとノーシア王国の国家防衛戦略上、非常に困るんじゃ。」


「そんな大きな問題を持ち出されても困ります。」

今日の私の人権はかなり無視されまくっていて、これ以上耐え切れない。


「とりあえず、ルシャちゃんが鍵だということは分かったんで、今日はこれくらいにしませんか?もう遅いですし。」とジョイセントさんが言ってくれた。


結局私は教会には帰らせてもらえなかった。

「シスター達には、『王立医療院で急遽、仕事をすることになった。』と説明しておきましょう。心配かけないようにね。」と使いも送ってくれた。

ジョイさんは優しい。


私は豪華な内装の病室に通された。昼から何も食べてない、でも食欲はなかった。

大変なことになってしまった。軍に取り立てに行くなんて軽率な行動だったと反省した。


私はただ普通に、暮らしたいだけなのに。

ボフッとベッドに倒れこむ。ふわふわのベッド。

寝心地は最高だけど、気分は最低だった。



***



「ジョイ、ガキに甘すぎないか?」

「イチ大佐、彼女限界ですよ。協力的になってもらうためにも優しくしないと。

見張りは内外に配置してます。」


「他の者の魔力も奪えるのじゃろうか?」


「そこも気になるな。」


「危険だぞ。敵国のスパイではあるまいな。」


「その可能性も考えたが…あのガキの行動はスパイにしては甘すぎる。なんで俺がこんな目に!」


「そもそも最初に不用意にキスしたの大佐ですしねー。」


「自業自得じゃ、バカタレ。」


「はぁ~。せっかくの休暇が無駄になる。」


「考えようによっては、かわいい娘さんとイチャイチャできる最高の休暇になるぞ。ふぉーっ、ふぉっ、ふぉっ!」


「笑えねぇ、全然笑えねぇ!!」


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