第6話 王立医療院でのキス実験(1)


ついたのは王室御用達おうしつごようたしの服飾店…ではなく、なんとノーシア王国王立医療院だった。


「あの……ここは違う……ような。」

私はまた怖くなってきた。


「テメェには聞きたいことが山ほどあるんだよ!」


「ごめんね。ルシャちゃん、嘘ついて。ドンドコさんが心配するといけないから、あの場ではね……。」


私これからどうなるの?



***



数時間前、ようやく目が覚めてきた俺はイラついていた。

落ち着きたくてタバコをくわえる。


今日はクソガキが騒がしくてよく眠れなかった。せっかくの休暇なのに。


今夜はどこの娼館に行こうか……そんなことを考えつつ、右手の人差し指の先に意識を集中する。呪文の詠唱なしでも簡単な炎くらい扱える俺は、そうしていつも通りにタバコに火をつけた、と思った、が。


「ふあっ!?あれ?火がつかん!?なんだぁ?」


「イチ大佐?どうしたんですか?」とジョイが聞いてくる。


「火がつかん!魔力がなくなってる!?」


「えええぇっっーーーーー!!!??

マジっすか!?なんか変なもの食べたんじゃないですか?」


「昨日から酒しか飲んでない。あ!?テメェの入れた紅茶は飲んだぞ!」


「いつものお茶ですよ!他に変わったことは?」



面倒な事件の始まりだった。

いやクソ生意気な女との出会いというべきか?



***



「こちらは王立医療院のボンバル院長です。」

ジョイセントさんが紹介してくれたのは白髪で短髪、黒縁の丸い眼鏡をかけた白衣のおじいさんだった。


「はじめまして。かわいい娘さん。」と、にこやかにあいさつしてくれた。


「はじめまして。ルシャです。」

「素敵な名前だね。」

「ありがとうございます。」


おじいさんはいかにもお医者さんらしく、落ち着いていて、インテリな感じ。

私がなぜここに連れてこられたのだろう?


診察室というよりは、豪華な応接室。

深紅のソファの座り心地もいい感じ。


「さっそく本題に入る。」とバーレント大佐が言う。


かなり機嫌が悪そう。


「オマエ、俺に何をした?」


え?されたのは私の方でしょ。


「オマエのせいで魔力が使えなくなった。」


はぁ?何言ってるのこの人?


「うーん。ホントにルシャちゃんが原因でしょうか?」

ジョイセントさんが疑問の声で聞く。


「コイツと会う前までは、タバコに火をつけることができていた。このガキが俺の魔力を奪った可能性が高い。」と私をジトッと見る。


「フムフム、まぁ落ち着け、イチ。」ボンバル院長は大佐を呼び捨てにした。

「とりあえずワシの目の前で、魔力を集中させてみろ。」


面倒くさそうな顔で、大佐が右の人差し指を立て、じっと見つめている。

すると小さな火がゆらりと現れた。


「あー!出るじゃないですかー!」

ジョイセントさんが喜んだのもつかのま、火はすぐに消えた。


しばらくバーレント大佐は指先に意識を集中しているようだったけれど、ドサリとソファの背もたれに倒れこんだ。


「ダメだ!もう尽きてる。」

大佐は納得いかない様子だけれど、私はビックリしてしまった。


「火!出たんですけど!?指先から!」

目を丸くする私を見て、ジョイさんがにこやかに説明する。


「あー、大佐は魔法使えるんだよ。」


魔法騎士なの?ホントに!?こんな筋肉痴漢男が?


「ふーむ。」院長が神妙な顔をする。

「連絡では全く火が出ないと言っていたではないか。」


「あぁ…。さっきまではいくらやっても着かなかった。呪文の詠唱を始めても魔力を引き出せなかったし。」


「ではなぜ今は火が着いたんじゃ?」


「俺にも分からん。火が着いたと言っても、いつもより弱いし、もう着かない。今までこんなことなかった。」


「娘さんが原因だと考える根拠は?」


「コイツに会ってから火が着かなくなった。」


「魔力を奪われるような、攻撃らしきものをこの子から受けたのか?」


「いや。」


「そもそも人の魔力を奪うようなことは、そう簡単にできるもんじゃない。魔物じゃあるまいし。魔力を奪われている間、いくら鈍感なお前でも少しくらいは異常を感じるだろう?何かこの子との接触で異常を感じたのか?」


「んー?そうだなぁ?コイツ…キスが下手だった。」


それ!?関係ある!?


「アレはあなたが無理やりっ…!」


「無理やり?」院長が二ヤーっと笑う。

「イチー。お前もなかなかのワルよのぅ。こんな若い娘さんに。」


私はカァーッと赤くなってしまった。


「なんだぁ?オマエ初めてだったのかぁ?」と口の右端だけをあげてニヤリと笑う。


私は目を伏せて答えた。

「初めてじゃないし。」


「ふーん。」大佐はソファに深くもたれたまま、大して興味もなさそうに言った。


「イチ、最後までヤッたのか?」


「ヤッてねぇよ!」


この人たちの会話には、デリカシーというものが皆無らしい。


「ふーむ、接触といってもキスどまりか。キスで奪われた可能性があるのなら、もう一回キスしたらどうだ?」


「ナルホド!それだ!」


えっ!?


向かい側に座っていた大佐がドスドスこっちに来る。


「ちょっ!ちょっと待っ…!!」


大佐はソファに座っている私の肩を押し付けて、朝と同じような、いやいやもっと激しいディープなキスを始めた。

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