第5話 史上最悪な騎士のディープなキス(4)

「ちょっとオジサン!!」

「ハァ!?オジサンだぁ?俺はまだ32だ!」

「立派なオジサンでしょ!」

「誰にむかって口聞いてんだ!テメェ!!」

「お金の管理もキチンとしないで、飲んで、打って、女遊びして、痴漢して!露出して!!謝りもしないんですか!?それでも騎士なんですか!?恥ずかしくないんですか!?」


筋肉ダルマが何か言おうと口を開いた時、もうたまらないという感じでイケメンが笑い出した。


「ブハッ!イチ大佐ぁー。まったく、ククッ、このお嬢さんの、プハッ。言うとおりですよぉー。クスクス。」


立ち上がりかけた筋肉ダルマは、またドスッと座り、

「あー。すまなかったなっ!」とやけに素直に不機嫌そうにだけど答えた。


「金はとりあえず、ジョイ!オマエが払っとけ!」

「えー!僕!?。今、10万しか持ってないですよー!」

「まったく無いよりいいだろ!」

「はぁー。とばっちりぃ。」


もう誰でもいいから下さい!お金!

今日持って帰れば、今後の時給が二倍になるっ!


私はジョイセントさんからお金をもらうと、逃げるように基地を飛び出した。


最悪な一日がようやく終わる、とその時は思っていた。



***



もう太陽が沈みかけている。自分の長い影を見ながらドンドコ秘薬店までトボトボ歩いて帰った。ともかくツケを回収して時給二倍だ。元気を出そう。


「ドンドコさん、ただいま……。」と店内をのぞいて私は固まった。


筋肉露出狂男とジョイセントさんがそこにいたのだ。


「おかえりー。ルシャちゃん!」ジョイセントさんの明るい声が響く。


「なんで、ここにいるんですかぁぁーーーーぁぁっ!!!!!!!????」


なぜ私より先回りして店にいるのか?

さっぱりわからない。


「おいガキ、ちょっと顔かせや。」

筋肉下品男が私をにらみながら言う。


「た、大佐。何か不手際がありましたか?」

店主のドンドコさんが蚊の鳴くような声で聞いた。


「やだなー、イチ大佐。そんな言い方したらみんな怖がっちゃいますよー。」

ジョイセントさんが人懐っこい笑顔で場を和ませる。


「ドンドコさん、実はうちの大佐がルシャちゃんの眼鏡を壊しちゃったんですよ。それでね、弁償させてもらおうと思いまして、こうしてうかがったんです。」


「なんだそんなことでしたか。」ドンドコさんは心底ホッとしたようだった。


私は眼鏡のことなんかすっかり忘れていた。

「眼鏡なんて弁償してもらわなくてけっこうです。気にしないでください!!!」


「そういうわけにはいきませんよ。軍人が一般市民の物を壊したなんて恥ですからね。さぁ、メガネ屋さんへレッツゴーです。」


「もうすぐ夜ですし!」


「大丈夫。王室御用達おうしつごようたしの服飾店は24時間年中無休ですから。」


「早くしろ。俺は忙しい。」

そういうとバーレント大佐は私をヒョイッと小脇に抱え、ちょうど到着した馬車に放り込んだ。


あたりは暗くなろうとしていた。


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