05.コックリさん
「百歩譲って、ラブレターを書こうと思った動機はわかった。でも、そっからなんでコックリさんになるの?」
マイコは近くの席の椅子を、ミコの机の横に寄せて、そこに座った。
「あたし、コックリさんってすごく自由な存在だと思うの。コックリさんっていうか、自動筆記とか、そういうのが。頭で考えるよりも早く出てくる言葉よりも早く出てくる感情よりも早く出てくる感覚よりも早くでてくる何かのことを、あたしは「自由」って言うんだと思うんだけど、自動筆記って「自由」を形にするのに悪くない選択肢だよ、きっと。たぶん、そう。まだ試してないからわかんないけど。きっと、たぶん、そうだよ。普通のキーボードで指を止めずに書き続ける、っていうのも試してみたんだけど、それだとまだ遅い感じがして、もっと速くするにはどうしたらいいかって考えて、コックリさんにしてみた。これね、あたし一生懸命考えて作ったんだよ」
ミコは机の上を指して、自慢げに言う。マイコは「まあ、確かに気迫は伝わってくるね」と答えた。
ミコはスカートのポケットから、十円玉を取り出してみせた。
「このホログラムペーパーの上に十円玉を置きます。後は、指が勝手に動きます。すごい速度で動きます。種は簡単です。ホログラムペーパーを囲むように配置してある小人から流れる微弱な電流が、ホログラムを伝って十円玉からあたしの左手に流れてきます。電流はあたしの左手から、電気局部麻酔と同じように感覚を奪います。でもなくなるのは感覚だけで、あたしの左手は自由に動きます。でも感覚がないので、動かしてる実感はないし、操ることもできません。左手の十円玉は、ブラウン運動みたいに素早く不規則に動き出します。後は、コックリさんが現れるのを待ちます。コックリさんが現れると、小人に内蔵されてるオルゴールが、アヴェ・マリアを奏でます。コックリさんが本当に現れたかどうかは問題じゃないよ。小人のセンサーは、実際にはコックリさんじゃなくて、地磁気の乱れを関知するだけだから。幽霊現象って、地磁気の乱れが原因の一つと言われているって知ってた? でね、コックリさんが、あたしの左手を動かして作るメッセージは、ホログラムペーパーのバッファに出力されるから、家に帰ったらそれを印刷すれば、コックリさんという名のあたしの「自由」が書いたラブレターの完成!」
ふふーん、と。今度は地で水木キャラばりの鼻息を吹かしながら、どうよ、と言わんばかりの満面の笑みで、ミコはマイコの顔を見た。
マイコは沈黙した。
今度は即座に笑い返したりはしなかった。唇を強く結び、じっと何かを考えるような表情をして、短く一言呟いた。
「すごくいいと思う」
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