04.ラブレター
「そのつもりだけど」とミコが答える。「変かな?」
「いや、それなりにコックリさんっぽさは伝わってくるよ」
マイコの視線の先、ホログラムペーパーにはひらがな五十音表が出力されている。ホログラムペーパーの上部、表の上には、鳥居の記号と、それを挟むようにしてYとNのアルファベットがある。
「古典的と言っても差し支えないっすよ、この感じは」
「なら、よかったっす」
「でも、これラブレターじゃないよね?」
根本的な問いを、マイコは投げた。
「うん。コックリさんっすね」
「ラブレター書くんじゃなかった?」
「書くっす」
「ううん。なんか噛み合ってなくない?」
「コックリさんで、ラブレター書くっす」
「ああ」マイコはようやく合点がいった、という表情でうなずいた後で、「いや、やっぱり変だ……」と言った。
ミコは下唇を前に突き出して、困った表情をした。
「やっぱり変かな……?」
「うん」マイコはうなずいた。それから「でも、ラブレターの書き方なんて人それぞれだし、いいんじゃない、そういうのも? 成功する気はまったくしないけどさ」
「うん、あたしも全然成功する気はしないし、成功させる気も実はなかったり」
けへへ、とミコは照れたように笑う。
「んんん? じゃあ、なんでラブレター書くの?」
「マイちゃん。あたしはね、自由を求めてラブレターを書くの」
「ほほう」マイコは顎に手を当てて言う。「わけわからんな」
「恋ってさ、恋愛ってさ、全身全霊を使うっていうか、体細胞が総動員してる感覚っていうか、そういうのあるでしょ? あたしの心と体と意志の持つ可能性がさ、一直線に並んでる、みたいなね。なんてかさ、無敵状態みたいな? もう何も怖くない、みたいな? 不安とか躊躇とかとは無縁になって、自分が何をするべきなのか、その答えが一つきりしか見えなくなる感じ。あたし昨日の夜に気づいたんだけど、これってすごく、自由ってことじゃない? あたし、もしかしたら単に、恋に恋してるだけかもしれないけど、でもたぶんこの自由が体いっぱいに満ちている感覚は、錯覚とかじゃないと思うの。そう思った途端、ベッドの上で飛び跳ねる程喜んじゃったんだけど、でも飛び跳ねるだけじゃ足りない感じがしたんだ。それで、あ、ラブレターを書けばいいんだ、ってピンときた!」
目を輝かせて語るミコに、マイコは短く「わけわからんな」と言って笑った。
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