第8話

10月、健斗は無事プロ野球のドラフト会議で東京スパイダーズから3位指名された。ついでに言うなら、前チームで4番サードで主将だった葛西先輩も大阪バイソンズから5位指名。我が鎌大附属から新たに2人のプロ野球選手が誕生した瞬間であった。




「健斗、指名おめでとう」


「ああ、ありがとう。優のおかげだわ……」




記者会見が終わり、2人になれる機会が現れるとあたしは健斗にこう言った。あたしと健斗が付き合っているのは秘密である。いくら健斗がもう野球部から引退したとはいえ、あたしはまだ鎌大の野球部のマネージャーである。で、公式には恋愛禁止。みんながいる前では健斗はあたしのことを『野口』って言ってるし、あたしも健斗のことを『筒井先輩』と言っているのだ。とはいえ、結衣さんはどうもサッカー部にいる3年生の先輩と付き合っているみたいだし、実際はどうなんだろう……




そして、我が鎌大野球部の近況についても書いておく。鎌大野球部は秋の神奈川県大会で優勝し、関東大会にコマを進めた。そして今週末から開かれる関東大会でベスト4まで勝ち残ればおそらく、来年春の甲子園には出場できる。


新チームの鎌大野球部は、小坂さんがエースとなり、中井さんとともにダブルエースという扱いになっている。小坂さんが抑えれば、それに負けじと中井さんも抑える。そんな感じで秋の県大会を勝ち上がってきた。


一方打線の方は前チームよりはやや迫力を欠くものの、松村さんと北川さんが打線の中心となった。そして、健斗に代わってショートのレギュラーを仕留めた西野くんも1番打者として走攻守全てにおいて活躍している。




そして、我が鎌大野球部は秋の関東大会で準優勝という戦績を残し、来年春の甲子園出場を確実にした。




◇ ◇ ◇




2月の半ば、健斗は高校の卒業式に出席するため、プロ野球のキャンプ先から帰ってきた。健斗曰く、プロの練習は高校より格段にキツくて大変らしい。そして式が終わり、3年生を送る会が開かれるため、あたしはもう3年生が集まっている野球部のグラウンドに向かった。




「優、久しぶりだな」


「うん、久しぶりだね。あたし、健斗と会えなくて寂しかったよ……」


「俺も優と会えなくて寂しかったよ……」




あたしが健斗と会ったのは健斗がスパイダーズの寮に入る前の日以来だから、1ヶ月ぶりくらいだろう。そして……




「筒井、野口!イチャイチャするな!グラウンドに戻ってこい!」


「あ、はい。すみません!」




関監督からお叱りを受けたあたしと健斗は、グラウンドに戻り、3年生を送る会が開かれた。




「3年生の先輩方、ご卒業おめでとうございまーす!!!」




野球部の現主将である前田さんの合図で、あたしたちマネージャー陣はクラッカーを鳴らす。




「春香さん、卒業おめでとうございます!」


「ありがとう。私、いい後輩持ってよかった……」




あたしたち後輩マネージャーから声をかけられた春香さんはうっすら、涙を流している。そして……




「筒井先輩、卒業おめでとうございます!」


「ああ、ありがとう」


「ところで先輩、優ちゃんと付き合っているって本当なんですか?」


「!?……お前、なんで知ってるんだ!?」


「だってさっき、2人でイチャついてたところ見ちゃいましたもん。じゃあ優ちゃん、向こうにいるからあとは2人で仲良くイチャついてくださいね〜」




ちょっと桃菜さん、何言ってるんですか!?……というわけで、あたしと健斗はまた2人きりになった。




「そういえば今日、何の日かわかってる?」


「ああ、今日って……何だっけ?」


「……ったくもう!今日は何月何日かわかる?」


「2月14日」


「……正解!だからチョコあげる」




あたしは健斗に手作りのチョコレートを渡した。




「!?……ああ、ありがとうな」


「そう。今日はバレンタインデー当日なの。なのに、何の日かわからないなんて、彼氏として恥ずかしくないの?」


「悪ぃ、あいにく今の俺は野球にしか目がなくてだな」


「……でも、そんな健斗があたしは大好きなんだけどね」


「ん?ああ、大好きって言ってくれてありがとう。俺も優のことが大好きだよ」


「あたしも健斗のことが大好きだよ……」




こうして、あたしと健斗はお互いの唇が深く、何度も激しく触れ合った。多くの野球部員が集まっているグラウンドの上で……ね。

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野口優はきっと、甲子園を目指す 青獅子 @bluelion

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