第7話
あたしは何のために鎌大のマネージャーをしているんだろう……というか、何でわざわざ遠くて、受かるかどうかすらわからない高校を受験したんだろう。あーそういえば、あれがきっかけだったかな……
去年の夏休み、部活を引退したばかりのあたしは毎年のごとく、テレビの高校野球中継に釘付けだった。そして甲子園の開幕試合に登場した高校が神奈川県代表の
そしてこの時、2年生ながら鎌大の3番ショートという攻撃・守備両方共に重要なポジションを任されていたが筒井先輩であった。1回戦を筒井先輩の攻守に渡る活躍で快勝した鎌大附属はこのまま勝ち進み、決勝まで勝ち上がった。
筒井先輩は、甲子園でスーパープレーを連発。打撃では普通の打者ならシングルヒットという当たりを、自慢の快足でツーベースやスリーベースにし、守備では忍者のごとくヒット性の当たりをアウトにする好プレーを連発していた。
鎌大附属は決勝で敗れ、準優勝に終わったけど、誰一人泣いている3年生はいなかった。おそらくもう死力を尽くしたんだろう。もう悔いはないっていうほどにね。
しかし、2年生ながらチームの中心選手だった筒井先輩と葛西先輩は泣き喚いていた。そして試合後、宿舎に戻った筒井先輩と葛西先輩は「先輩を日本一にできなくて申し訳ありません」と3年生全員に言っていたっけ。……まぁ、この場面はその日の夜のテレビ番組で見たんだけどね。
結局、あたしが鎌大に行ったきっかけを作ってくれたのは、やっぱり筒井先輩だったんだ……
◇ ◇ ◇
結局、鎌大附属は決勝で敗れ、2年連続の甲子園出場とはならなかった。鎌大附属はエースの上田さんが先発したが、3回6失点と大誤算。続いて登板した小坂さん・中井さんの両2年生も失点を重ね、終わってみれば0対10の大敗。打線も東西大相模原の左腕エース・藤江さん相手に3安打しか打てず、完封を許した。
筒井先輩は9回裏2アウトの4打席目で空振り三振を喫し、最後の打者となった。結局この試合、筒井先輩は4打数ノーヒット。守備でも2回エラーをし、敗戦の瞬間はただ一人、号泣していた。
「野口、すまない。甲子園に連れて行けなくて」
試合後、寮に戻った筒井先輩はあたしを呼び出した。まだ泣き喚いた跡が残っている。
「先輩まだ、泣いた跡残ってますよ。あたしですら泣いてないのに」
「そうか……お前が泣かないって意外だな。しかし、俺たち3年は今日で引退だ。俺は実家近いから、明日にはもう寮から出る」
「そうなんですか……ところで先輩は、実家どこなんですか?」
「横浜市内。1時間あれば余裕で着くよ」
というわけで、あたしは先輩から実家がどこにあるか教えてもらった。途中まで同じ電車使うじゃん……
「でも、引退ということは先輩ともう野球、できないんですね……」
あたしも、筒井先輩ともう野球ができない。寂しいと感じると、目から涙が溢れ出し始めた。
「そうだ。俺も野口と離れ離れになると、寂しくなるな……」
「……でも、卒業まではまだ半年ありますよ?」
「ああ、そうだな。でも、俺はプロに行く」
「え!?初耳ですよ」
「お前の親父さん、優也さんと同じ土俵に立ちたいんだ」
「そうだったんですか……」
「それにお前、泣いてないか!?」
「アハハ……バレちゃいました。だって先輩と離れ離れになるの、寂しいんです……」
「……ああ、それは俺もだ」
「だってあたし、先輩のこと好きなんですもん。もちろん異性としてね……」
「!?それって……」
うわ、言っちゃった!あたし、筒井先輩に好きって言っちゃったよ。これにはさすがの筒井先輩もビックリしている。そして……
「……そうか。俺も野口が好きだ。もちろん異性としてな。……うん、付き合ってもいいんだぞ」
「……ありがとうございます!はい、是非お付き合いさせていただきます!」
やったぁ!両想いだったんだ!それに憧れの筒井先輩と付き合えるんだ!あたしにとって、これ以上嬉しいことはない。そして……
「もう恋人同士なんだから、お互い名前で呼び合おうぜ。大好きだよ、優……」
「あたしも健斗のこと大好きだよ……」
あたしと健斗はお互い名前で呼び合い、そしてお互いの唇が深く、何度も激しく触れ合った。
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