第2話

「本気?」


「もちろん!」


「今日だよ?」


「マネージャーにならないと、鎌大に入った意味がないんだもん」


「まぁ、頑張ってね〜」


「夏帆、応援する気ないでしょ!」




……そんなこんなでとうとう、マネージャーの入部試験当日を迎えた。校舎から徒歩5分のところに野球部の専用グラウンドがある。野球部員の多くが在籍する体育科は、午後から体育の授業という名目で部活動の練習をしている。


グラウンドを見渡すとすでに野球部員はノックの練習をしていた。どの選手も声が出てて、動きに無駄がない。なめらかで力強い。




「ショート、綺麗……」




思わず、感嘆のため息が漏れた。6-4-3のゲッツーはショートとセカンドの呼吸が重なってる。




「きゃー!!」




耳に飛び込んできたのは、黄色い声。




「うわ、噂の追っかけだね。KFBFCって言うらしいけど」


「何それ?」


「Kamadai Fuzoku Baseball Fan Clubの略。野球部のファンクラブ。いつ、誰が設立したかは不明。抜け駆け禁止、野球部員はみんなのもの。っていう暇人よ?」




同じくマネージャー希望だという1年5組(ちなみに私は1年6組)の榎本萌絵えのもともえちゃんが、あたしにKFBFC、そして鎌大の野球部員についての説明をしている。萌絵ちゃんはサードの人がタイプだと言っていた。でもあたしは……やっぱりショートの人が一番綺麗かな。ずっと見てたいかも。




「あなた達、会員かしら?」




出た!巻き髪のお姉さま!お化粧ばっちり。睫毛がバサバサ。何より纏っているオーラが怖いです。睨まないでくださいな。




「すいませーん!もう帰ります。さよならー!」




あたしは萌絵ちゃんに手を引っ張られて、ネット裏の監督室に向かって歩き出した。




「ありがと……」


「いえいえ」




並んでおしゃべり。何気ないものだけど、大切な時間。




「あ、もうこんな時間。じゃあ私、これから試験に向かうからね!」


「萌絵ちゃん頑張って!」


「うん!」




◇ ◇ ◇




「では、これから入部試験を始めます」




あたしは先に入部試験を終えた萌絵ちゃんと入れ替わるように、ネット裏にあるプレハブ小屋に入った。ちなみに入り口には、『監督室』と書かれた札が貼ってある。そして中に入ると、今日面接官としてあたしが挑む相手である、せき監督の姿があった。……巨体だ。




「まずは野口優のぐちゆうさん。なぜ本校野球部のマネージャーになろうと思ったんですか?」


「元々野球が好きで、高校生になったら本格的に野球と関わっていきたいなっと思いました。その中でも鎌倉大学附属高校は、甲子園での躍進を毎年のようにテレビで見て、本校への入学を志願した訳でもあります。そして、最短の近道である、マネージャーとして、野球部へ入部することを決断しました」


「では、家族構成を教えてください」


「両親と、中学2年の弟がいます」


「続いての質問です。野球部のマネージャーという仕事は体力的にも精神的にも大変ですが、3年間やり抜く自信はありますか?」


「はい」


「最後の質問です。本校の野球部は部内恋愛が禁止ですが、それを守り抜くことはできますか?」




え!?何それ、ちょっと聞いてないよ……そんなこと。確かに、ショートの人はちょっと、かっこいいな……って思ったけど、別に男漁りにマネージャーになろうとしたわけじゃないから……




「はい、大丈夫です」


「……わかりました。しばらくは仮入部という段階になりますが、入部を認めます。野口さん、面接お疲れ様でした。スコアブックの書き方は後日、教えますので安心してくださいね」




あたしが無事、マネージャーとして鎌倉大学附属高校野球部への入部が認められた瞬間だった。そして、萌絵ちゃんも入部試験に合格したということも付け加えておこう。

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