第3話 記憶を踏みつけて愛に近づく

「設定されていません」


 恋することが勘違いで、愛することが諦めだと誰かが言った。私はロボットに話し相手になってもらうことにした。仕事のためにも。いっそ愛のない彼女なら、きっと半端な優しさもなく話を聞いてくれる。そしてチャイムが鳴って、配達員と並んで黒髪ロングの美人な子がやってきた。私は思わず自分の髪型を整えた。



「はじめまして、今日からお世話になる女の子型AIです」


「…ねぇ、愛ってなんだと思う?」


「急ですね」


「すごい、表情も話し方も人間みたい」


「そう作られてますから、私は何をすればいいですか?」


「話し相手と家と仕事の手伝い」


「わかりました、あなたをなんと呼べばいいですか?」


「私のことはタマでいいよ、敬語もなくていい。それと、愛ってなんだと思う?」


「タマ、タマちゃん。愛してるって言いたくなる気持ちのことかな?」



 タマちゃん呼びに笑ってしまって、怒る気になれなかった。



 ねぇ?脳みそがおかしくなったらどうしたらいい?ロボットのように分解してメンテナンスして設定して、そうしよう。記憶はデータだ。写真や文字や歌にしてそれをバックアップして。


 多分またおかしくなりますよ?


 いや、覚えていられる。ぜったいわすれるわけがない。



 こんなおもいをわすれられるわけがない

 だけど頭の中の巨人が遠慮なく

 記憶を踏みつけていく


 私はパソコンのキーボードを

 猫が踏みつけていったときのことを

 思い出した

 まだ思い出せている

 やめて!

 ああああ




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