(12)
見かけよらず、ワイバーンはどうやらそれなりの知能を持っているらしい。
このままセルジュの命令に従っていると、あっさり砲弾の餌食になってしまうことに気が付いたのだろう。
残った二体のワイバーンが突然、つかんでいた岩石をぽいっと真下に放ったのだ。
その途端、ワイバーンの動きはまるで鉄の足かせがいきなり外れたかのように、目に見えて軽くなった。
そして一度の羽ばたきで大きく飛翔し、一気にスピードを上げてきた。
「キャー!! なによ! あの化け物、いきなり速くなってこっちに迫ってくるわよ!! 危ない! 危ないわ!」
と、男爵が例のごとく大声でさわぐ。
「大丈夫です。どうか慌てないでください、男爵様」
僕は男爵に声をかけてから、ミュゼットに言った。
「ミュゼット、まずは手前の一体を次の砲弾で倒そう」
「OK! ユウ兄ちゃん」
ミュゼットがうなずいた二秒ほどあと。
九発目の砲弾が「ドンッ」と発射された。
ややタイミングが早い。
が、ミュゼットは落ち着いた様子で、これまで通り砲弾に『フレイムショット』をかけた。
続いて僕が『エイム』を唱え、それを誘導する。
距離が近いだけに威力も強い。
弾が当たった瞬間、ワイバーンは「ギュエエッ」と弾けるように鳴き、炎を上げながらに墜落していった。
残るは一体――!
が、もう砲弾を撃つ時間の余裕はない。
「ミュゼット!」
「まかせて!」
僕の声に、ミュゼットが瞳で返事をする。
二人の息は今までにないくらい、完全に合っていた。
ワイバーンは空中を急降下し、今まさに、砲台の砲手の一人に襲い掛かろうとしている。
砲手は咄嗟に背を向け逃げようとするが、恐怖のあまり足がもつれ、城壁の縁に倒れこんでしまった。
僕は砲手をかばうため、ミュゼットと男爵をその場に置いて前に出たが、一瞬間に合わない。
ワイバーンが唸り声を上げながら、砲手を切り裂こうと、鋭く巨大な足爪を振り下ろす。
しかし間一髪で、砲手は悲鳴を上げながら、城壁の上をごろごろ転がり砲台の影に隠れこれをよけた。
直後「ガンッ」と鋭い音がして、ワイバーンの爪と黒光りする大砲がモロにぶつかった。
大砲は当然、かなりの重量があるはず。
なのに大砲はワイバーンの一撃で傾き大きく前へ重心を崩し、そのまま城壁の下へ真っ逆さまに落ちてしまったのだ。
さすがは空飛ぶドラゴン。凄まじい力だ。
だが僕の魔法なら――
ワイバーンは空中をホバリングしながら、次の一撃を加えるべく、体制を整えようとしていた。
僕はその隙に、倒れた砲手の前に立った。
『ガード!!』
見えない魔法の壁が、ワイバーンと僕たちの間をきっちりと
もはや守りは鉄壁。
ワイバーンがいくらかぎ爪で引っ掻こうが、羽の風圧で吹き飛ばそうとしようが、僕たちに傷一つ付けることはできない。
……とはいえ、今回もまた消極的な戦い方ではあった。
誰が見ても決して格好が良いとは決して言えない。
それは僕にも分かっている。
でも、だからといって背伸びをしてもしょうがない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます