(11)

「きゃー!! やったわ!! ど真ん中にタマタマが命中したわよ。この調子でどんどんイきましょう!」


 撃ちこまれた砲弾によって体内から炎が上がり、大空から垂直に地面に落下していくワイバーンを見て、男爵がはしゃぎまくる。


「ほんと最っ高! ユウ兄ちゃんとボクとの初めての共同作業、大成功だね!」


 一方ミュゼットは、結婚披露宴のケーキカットのようなセリフを吐きながら、僕に体を寄せてきた。


「ちょっとちょっと、男爵様、ミュゼット、まだ喜ぶのは早すぎますよ!」

 浮かれる二人を僕はたしなめて言った。

「まだ残り9体もいるんですから。あ、そうは言ってもある程度間隔を開け、一発ずつお願いしますね。タマタマと連続じゃあ困ります」


「んもう、ユウちゃんったら、冗談よ冗談! ――じゃあ砲手のみなさん、作戦通り順繰りにタマ撃ちお願いね!」


 男爵が調子よく叫ぶと、砲弾を撃ち終えた大砲のすぐ右隣の砲の砲手が導火線に着火した。

 ここで肝心なのは、いっぺんに大砲を発射させないこと。

 なぜなら例え僕やミュゼットであっても、何発もの弾に対して同時に魔法をかけることは、極めて難しいからだ。

 

 が、その点は前もって男爵だけでなく、砲手にも伝えてあった。

 なのでワイバーンが迫ってきているとはいえ、二発目の砲弾も「ドンッ」と単発で撃ち出された。


 後はさっきと同じ手順――

 つまりミュゼットが『フレイムショット』を砲弾に当てた後、僕が『エイム』の魔法でワイバーンにそれを命中させるだけだ。


「おい止めろ!! ふざけんな、バカバカバカ!!」


 自慢のワイバーンが立て続けに二体やられ、パニックに陥るセルジュ。

 しかし、こちらだって容赦はしない。

 続けて三発目、四発目――と、一定間隔で大砲を発射し、ほとんど流れ作業のようにワイバーンを撃ち落としていく。

 

「おまえら何してんだよ! 早く! 早くその岩をこいつらにぶつてしまえ!」


 癇癪を起こしたセルジュが、ワイバーンに向かってわめく。

 が、ひずめに抱えた巨岩のせいで、ワイバーンのスピードは一向に上がらない。


 ということはこの場合、まずはワイバーンに石を捨てさせ、身軽になったところで僕たちを襲わせればいいだろう。

 その当たり前の判断ができないのは、ませてはいても、やはりセルジュは所詮しょせん子供なのだろうか?


 そして結局、僕たちは魔法の砲弾で八体までワイバーンを倒した。

 セルジュの乗るワイバーンを除けば残りは二体。

 ここまでは割とあっけない展開だ。


 が、しかし――


 ここは地獄の異世界戦場。そうやすやすと勝利できるはずもなかった。

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