(28)

「ちょっとなに、何なのあの女は! ヤバい、絶対ヤバいわ! ねえねえミュゼット、どうしましょどうしましょ!」


 と、早速大騒ぎを始める男爵。

 それを見てミュゼットはあきれたように言う。


「男爵様! 今まで何度言ったか分からないけどさあ、もーいい歳こいてるんだからちょっと落ち着いてよ」


「何よ、ミュゼット! アンタこの状況で落ち着いていられる!? だってだって、ユウちゃんがやられちゃったのよ! ――ユウちゃーん! ちょっと大丈夫?」


 全然大丈夫じゃないです……。


 が、とりあえず生きていることを知らせるため、かろうじて動く手で男爵とミュゼットにジェスチャーを送る。


「よかったぁー、一応死んではいないようね」

 と、男爵がブラックジョークをとばす。


「あのさあー男爵様」

 ミュゼットが男爵をにらむ。

「ボクのユウ兄ちゃんがそんな簡単にやられるわけないじゃん!」


「でもミュゼット、ヤバい状態であることには変わりないでしょ! 魔法が使えるユウちゃんでさえあのざまなのよ。あの黒髪の女、きっとチョー強いわよ」


「んなこと分かってるよ。でも安心して、ボクがどうにかするから。男爵様、王の騎士団キングスナイツの力を舐めないでよ」


「でもさでもさ! ミュゼット、あんたさっきのハイオーク戦でほとんど魔力使い切っちゃったんでしょ? 魔法も使えないでどうやって戦うって言うのよ!」


「しっー! しっー!」

 ミュゼットが慌てて男爵の口を塞ぐ。

「もう男爵様のバカぁ! 敵に聞こえちゃうじゃん!」


「あらヤダ、アタシったらドジね!」

 と、男爵が飛び上る。

「つい口が滑っちゃったわ」


 ほとんどお笑いコンビのような二人の掛け合い――

 それを聞いていたシャノンは、必死に笑いをかみ殺しながら僕に言った。


「ユウト君の新しい友達、なかなか愉快な人たちね。――でもちょっと面倒くさそうだから、私はそろそろ退散させてもらうわね」


「ま、待て……!」


 このままだとシャノンはリナを連れて逃げてしまう……。

 何か魔法を……。

 

 しかし、シャノンに嗅がされた薬はすでに脳の方まで回っていた。

 全身が痺れ、とても魔法を唱えられる状態ではない。

 

 これこそまさにシャノンの思う壺。

 彼女は白魔法を使われることを警戒して、真っ先に僕を眠らせようとしたのだから――

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