(27)

「キャアッ!!」


 その時、異変に気が付いたリナの叫び声が聞こえた。

 リナは乱入してきたシャノンとふらつく僕を見て、顔をこわばらせている。


 一方、シャノンの動きは俊敏だった。 

 逃げ出すいとまを与えないよう、地面を蹴ってリナに素早く跳びかかった。


「ごめんなさい王女様。あなたもしばらくの間眠っていてもらうわね」


 シャノンはそう言いながら再び頭を軽く振って、リナの顔に長い黒髪を巻きつけた。

 昨日の戦いの恐怖の記憶が甦り、恐怖で動けなくなったリナは、その髪を振り払うことができない。

 

「ああ……」


 と、リナが小さく吐息を漏らした。

 僕と同じく、シャノンの髪に染みこんだ痺れ薬を吸いこんでしまったのだ。

 途端にリナは体勢を崩し、その場に倒れそうになった。


「あら!」

 リナの体を受け止めたシャノンがほほ笑む。

「うわー王女様、軽い! ヒルダとは大違いね」


 リナにとって不幸だったのは、昨日アリスの身代わりになるために飲んだ薬の効果で、目と髪が金色のままだったことだ。

 そのためシャノンは、自分の腕の中でぐったりする王女が偽物だという事実に、いまだ気づけないでいるのだ。


「じゃあね、ユウト君」


 シャノンはそのままリナをひょいと抱きかかえると、僕の方を向いて言った。


「言った通り王女様は私が責任を持って預からせてもらうわ。――あなたももう戦うのは止めて故郷に帰りなさい。それと、この先くれぐれもヒルダみたいな悪い女とかかわっちゃダメよ!」


「……シャノン……待て!」


 リナを連れどこかへ行ってしまおうとするシャノンを追って、僕は必死に前に進もうとした。


 が、さっき嗅がされた痺れ薬のせいで足元がおぼつかない。

 しかも眠い……。

 まぶたが重くて、目を開けているのがやっとの状態だ。


「あっ!! ユウ兄ちゃん、どうしたの!?」


 背後で誰かが叫んだ。

 笛を吹きながら、少し遅れてやってきたミュゼットの声だ。


「ギャアアアアアアアア――!! 」


 このたまぎるような金切り声は――

 やっぱり、間違いなく男爵……。

 

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