(11)

 しかし、ミュゼットはこの体当たりも軽く避けた。

 まだまだ動きには余裕がある感じだ。


 ところが、ハイオークもしつこく、


 右

   左

 右 

   左

 右

   左


 と、ミュゼットを狙って交互に鉄拳を振り下ろしていく。

 その度に地面には大きな穴が空いて、辺り一帯はたちまち、月の表面のようなクレーターだらけになってしまった。


「まったまた単細胞な攻撃を――」

 ミュゼットはハイオークの攻撃をことごとくかわしながら、不満げに言った。

「でもやっぱ武器がないとボクには勝てそうにないね。――さ、そろそろ終わりにしよっか」


 さらなる魔法攻撃で勝負を決めるのか――

 と、固唾を飲んで見守っていると、ミュゼットは右手の指を曲げ、再び手でピストルの形を作った。


『フレイムショット!!』


 次の瞬間、ミュゼットの指先から炎の弾丸がパラパラと勢いよく連射された。

 それはまるで、魔法の射撃モードを単射からフルオートに切り替えたかのようだった。


 おそらく今のが、ミュゼットの魔力で可能な最大限の攻撃――


 しかし、効かない。


 ハイオークはニタリと笑って一瞬足を止めると、腕をL字型に曲げ防御姿勢を取り、炎の弾丸をすべてブロッキングしてしまった。

 ミュゼットの魔法も凄まじい威力を持っているはずなのだが、ハイオークに大きなダメージを与えるまでには至っていないのだ。


「ありゃりゃ……これでもダメか」

 ミュゼットはその時初めて、困った表情を浮かべた。

「まいったなぁ」

 

 そこへまた、ハイオークのパンチが飛んでくる。

 ミュゼットはやむなくこれを動きまわって逃げ、隙を見ては『フレイムショット』を撃ち込む――


 一人と一匹との戦いは、しばらくこの繰り返しとなった。

 このままだと、どちらかの体力――ミュゼットの場合は魔力も――が先に尽きるかの持久戦だ。


「ねえねえ、ユウちゃん!」

 その様子を見ていた男爵が、僕の服をひっぱって言った。

「ちょっとヤバくない? あの子の魔法、全然通らないじゃない」


「ええ、確かに」


「じゃあさ、どうにかあの子を魔法で援護できないの? ユウちゃん、あなた攻撃補助魔法も使えるんでしょう?」

 と、男爵がせっつく。


「そうしたいのは山々なんですが……」


 困ったことに、戦いの前ミュゼットが作り出した『炎のファイアウォール』の結界が、どうしても破れないのだ。


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