(10)

 引くに引けないハイオークは低く唸りながら、真っ赤になりつつある戦斧の柄でミュゼットの炎の剣を受け続けた。


 ――が、それも長くはもたない。


 しものハイオークも1000℃を超える高熱に耐えきれなくなったのか、「グオッ!」とひときわ大きな叫び声を発して、戦斧をミュゼットの方に強く押し返し前方に放り出してしまった。


「うわっと」


 ミュゼットは熱々の戦斧を避けるため、手から一瞬で炎の剣パッと消し、後方にジャンプした。


 そのまま地面に落ちた戦斧は、そこに生えていた雑草に触れ「ジュッ」と音を立てた。

 しかし、それでもまだ鋼は熱くくすぶっている。

 戦斧は当面、武器として使い物にならないだろう。


 そして辺りに漂ってきたのは鼻につく異臭――

 草の焼ける臭いと、ハイオークの手のひらの肉が焼ける臭いが混ざり合って発生した何とも言えない悪臭だ。 


「これで少しは静かになったかな? ちょっと臭いけど――」

 鼻をつまみながらミュゼットが言った。

「それにさ、ご自慢の得物ぶきがなくっちゃあ、戦力半減だよねぇ!」


 ミュゼットに徹底的にコケにされ、ハイオークはついに怒髪どはつ天をいてしまった。


 次の瞬間、

「ウオオオオオオオオオオオッ――!!」

 と、恐ろしい咆哮ほうこうを上げながら、ミュゼットに向かって突進してきたのだ。

  

「ひゃー、怒った怒った」


 おどけるミュゼットに対し、ハイオークの怒りのメガトンパンチが炸裂する。

 もう作戦も何もない、ハイオークはひたすら力任せに、押して押して押しまくるつもりなのだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る