(9)

 だが、あまりに身長差がありすぎて、ミュゼットがどんなに手を伸ばしても炎の剣が届くのはせいぜいハイオークの腰のあたりまで。

 たとえ剣が当たっても固い鎧に阻まれ、まともにダメージを与えられるとは思えなかった。

 

 つまりそれはまったく無意味な攻撃――

 ハイオークもミュゼットの意図を図りかねたに違いない。

 とはいえ魔法剣での攻撃だし一応、といった感じに、ハイオークはその斬撃を戦斧で軽くはらった。


「うわっと」


 ミュゼットが思い切りよろけ、危うく地面に転びそうになる。

 当たり前だ。

 いくら魔力が優れていても、腕力でハイオークにかないっこない。

 まさに天と地ほどの差があるだろう。


「さすがにやるね~」

 体勢を立て直し、炎の剣をギュッと両手で握り直したミュゼットが言った。

「じゃ、今度はもうちょい本気出していくよ!」


 ミュゼットが一瞬、精神を集中させる。

 力の差を魔力で埋めようというのか、身にまとう真紅のオーラのパワーはさらに高まり、炎の剣はより激しく燃え上がった。

 

「覚悟ォ――!」 

 

 ミュゼットがそう叫び、もう一度はハイオークに切りかかった。

 今度はハイオークも、戦斧を両手にしっかり持ち、そのつかでこれをガツンと受けた。

  

「やったね!」

 攻撃が成功したわけでもないのに、ミュゼットはなぜか嬉しがっている。

 

 え!? なんで?

 と思っていると――


 ハイオークの鋼鉄の戦斧が、まるで製鉄所の炉で熱せられた鋼板のように、みるみる赤色に変化していくではないか。

 

 そうか! 

 ミュゼットの狙いが分かった。


 ハイオークの鎧には熱耐性があっても、戦斧は違う。

『フレイムソード』の灼熱の炎を戦斧に伝え、その鋼を熱で溶かしてしまおうというのだ。

 


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