(8)

「燃え尽きちゃえ!」


 不敵な笑みを浮かべ、叫ぶミュゼット。

 あまりに巨体過ぎて、ハイオークはミュゼットの魔法を避けるすべを持たない。

 炎の球の格好のまとだ。


 そのほんの二秒後――


「ボンッ!」という腹の底に響くような爆発音を立て、炎弾はハイオークの胴体を直撃した。

 同時に、赤い炎が一気に燃え上がって、熱風がハイオークの体を包み込む。


 その威力のすさまじさは、ここから見ても十分わかった。


「んーあっけないなあ」


 と、ミュゼットもつまらそうに言う。

 呑気にあくびでもしそうな感じだ。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇



『フレイムショット』


 敵一体を攻撃する炎の弾。

 ミュゼットほどの使い手なら、手ごわいモンスターをたったの一撃で倒すことも可能だろう。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 


「やりました……よね?」

 と、リナが僕に聞いてきた。


 事実、炎の結界ファイアウォールの外側から見ていていも、ミュゼットの勝利は一見確実に思えた。


 しかし――


「いや、まだ全然ですよ」

 僕は答えた。

「リナ様も、ハイオークのタフさを知っているでしょう? それにあの黒い鎧の防御力も」


 そう言い終えた途端。

 ハイオークは炎と煙を振り払うかのように、「ドシンッ」と重い一歩を踏み出した。 

 おそらく、ほぼ無傷だ。


 ミュゼットもそれを見て、「ええー!」と目を丸くして驚いている。

 が、怯える様子は微塵みじんもない。

 それどころか、逆に快哉かいさいして叫んだ。


「そうこなくっちゃ! じゃあ次の魔法――『フレイムソード!!』」 


 すると、今度はミュゼットの手の中に、長さ3メートルはあるかという炎の剣が現れた。

 それから――


「てやーっ」


 と、勇ましくもかわいらしい掛け声を上げながら、ミュゼットは魔法で作られた炎の剣で、ハイオークに真正面から切りかかったのだ。

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