(5)

「まあ男爵様が認めても認めなくても、ボクは最初から戦う気だったけどね」


 ミュゼットは上着として羽織っていたえんじ色の頭巾を脱ぎ捨て、半袖のシャツに白い太もも露わなショートパンツ姿になった。


 布地やデザインは一応中世風――

 なのだが、それはまるで夏休みに近所のコンビニへ買い物に行く女子中学生のようなラフな服装だった。

 

「ほいっ。これボクお気に入りだからさ、戦いが終わるまで大事に持っといて」


 ミュゼットはえんじの頭巾をこちらに投げてよこした。

 男爵が自然に手を伸ばしそれを受け取る。

 

「男爵様、どうも。あ――それと三人とも、戦いに一切の手出しは無用だからね。余計な事したら怒っちゃうよ」


 ミュゼットはそう言ってから、大胆不敵にもハイオークの方へスタスタ歩いて行った。


 おいおい、本気で一人でやる気なのか――!

 あらためて驚きを覚えた僕は、大声でミュゼットを止めた。

 

「ちょ、ちょっと待った!」


「あーやっぱし邪魔する気なんだ」

 ミュゼットは振り向き、僕をにらみつける。


「だっていくらなんでも一人でハイオークと戦うのは無謀だよ! それにその格好じゃ!」


「格好? この服のこと? んなの戦いの勝敗には関係ないね」


「いやいや、それはおかしいでしょ!」


「ダメ? どうしても止める? ――うーんそれじゃあ仕方ないか」

 ミュゼットはため息交じりに、地面に人差し指を向ける。

「悪いけど結界を張らせてもらうよ――『ファイアウォール!!』」


 次の瞬間、ミュゼットの指先から魔法エネルギーが放出された。

 そのエネルギー波は、地面に当たるとたちまち白く燃え上がり、僕たちの目の前に高さ1.5メートルほどの炎の壁を作ってしまった。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇



『ファイアウォール』


 一定の時間炎の壁を作って敵の行く手を遮る炎の魔法。

 無理に乗り越えようとすれば命はない。

 


◇◆◇◆◇◆◇◆◇



「こっちに来ようとすると焦げ焦げになっちゃうから気をつけてね☆彡」

 

 魔法を唱え終わったミュゼットはいたずらっぽくウインクし、再びハイオークの方に向き直った。


 僕はそんな怖いもの知らずのミュゼットを何とか引き留めたくて、燃え盛る炎の方に近づいた。

 が、全身に強烈な熱を感じ、思わず三歩ほど後ずさりをしてしまった。

 

 ――この結界ファイウォール、相当強い魔力によって作り出されている。

 おそらく僕の魔法ブレイクでも簡単には破れないだろう。

  


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