(11)

 そういえば――

 僕はふと、初めての魔法で女騎士ティルファの傷を治した時のことを思い出した。


 あの時、彼女はうわ言のように「お兄様に会いたい、お兄様に会いたい」と、繰り返していたっけ。

 あれはこの竜騎士、クロードのことだったのだ。

 確かにこんなに素敵な“お兄様クロード”がいたのなら、つらい時苦しい時に頼りたくなる気持ちも分かる。


 しかし、どうしたものか?

 ティルファがあんな状態になってしまったことを、今、クロードに正直に話すべきか?


 ……うーん、あまり気が進まない。

 

 とはいえ、このままデュロワ城に行って二人が再会すれば、クロードはおのずと妹の深刻な病状を知ってしまう。

 

「あの、もしかしたら、ティルファ様はクロード様の……?」

 と、僕は一応確認した。


「ええ、私のたった一人の妹です」


「やっぱりそうでしたか。――ティルファ様は重傷を負いながらもアリス様の元へ参じ、ちゃんと使命を果たされましたよ」


「重傷!?」

 話を聞いたクロードの顔色が変わる。

「それで妹は!? どうなったのですか?」


「ご安心ください。偶然その場に居合わせた僕が魔法で治療しました。ティルファ様は今、デュロワ城で休んでおられます」


「おお、そうだったのですか! それはよかった!!」

 クロードは叫んだ。

「しかしまさかユウト君が妹の命の恩人だったとは。どうやらお礼をすべきだったのはユウト君ではなく私の方でしたね。本当にありがとうございました」


 言えない。

 やっぱり自分には言えない。


 ティルファの無事を知り心から安堵あんどするクロードを見て、僕は言葉を失った。 

 妹思いのクロードが、お城に着いてティルファの本当の病状を知った時、いったいどれだけのショックを受けるだろうか?


 想像するだけで気が重くなる。



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