(12)

「ほらあ、二人ともサボらないサボらない」

 大いに喜ぶクロードとすっかり暗くなってしまった僕に、ミュゼットが声をかけてきた。

「回復魔法が止まってるよ~」


 ……ミュゼットの言う通りだ。

 とにかく今は残りの兵士を治すのが先決。

 ティルファの病状について、クロードには、デュロワ城に戻るまでの間に話しておこう。   



◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 それからしばらくして、僕たちはすべての治療を終えた。

 ケガをした全員がゆっくり歩けるまでに回復し、出発の準備も整った。


 だが、年齢のせいかレーモンだけはいまだ立ち上がるのがやっとの状態で、誰かと一緒に馬に乗ることも難しかった。

 そこで話し合いの結果、トマスがデュロワ城までレーモンを負ぶって運ぶことになった。


「トマスさん、どうか叔父様を頼みます。まだお怪我があるのに申し訳ありません」

 リナが、レーモンを背中にしょったトマスに声をかける。

 

「マカセテ、マカセテ。ケガはユウトがナオしてくれたから」

 トマスが巨体を揺らしながら、うなずいて笑う。


 実際、エリックと共に昨日から戦い続けたトマスは全身にかなりの傷を負っていた。

 が、僕が『リカバー』をかけたところ驚異的な回復力を見せ、ほとんど体力満タンの状態まで治癒したのだった。


「じゃあ、そろそろいくね!」


 頃合いを見計らい、ミュゼットが元気な声で言った。

 そして、どこからともなく小さな横笛を取り出した。


「ボクが先頭に立って、これを吹きながら霧の中を進むから、よーく聴いていていてね」


 ミュゼットが小さなピンク色の唇に笛を当て、かすかに息を吹き込む。

 

 すると――


 小さな子笛から流れ出すのは、世にも美しくはかないしらべ。

 古くから伝わる故郷の音色ねいろ


 これがグリモ男爵が考えた作戦の最後の〆。

 ミュゼットが奏でるこの笛の音で霧の中みんなを誘導し、無事にデュロワ城まで辿り着こうというのだ。




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