(6)

「リューゴ様……」

 リナは周囲にはばかることなく、切なそうに呼びかけた。

 

「リナ殿……」

 と、答えるリューゴの表情にもつらさがにじんでいる。


 そして二人は一時いっときの間、名残惜しげにお互いを見つめ合うのだった。

 みんなの手前、さすがに抱き合ったりはしない。が、しかし――


 耐えろ!

 耐えるんだ!


 リナにもリューゴにも悪気はないのだからと、僕は必死になって心の奥から込み上げてくる怒りと嫉妬を抑えつける。

 それに二人がここまで強く別れを惜しむ理由も――あくまで一応だが――理解はできるのだ。


 というのも、リューゴたち王の騎士団キングスナイツはこの作戦が終わり次第、援軍の要請という重大な使命を帯び、敵中を突破しロードラント王国の王都に直行する予定になっていた。


 一方、僕たちは兵士を救出した後、デュロワ城までなんとか落ち延び、そこでわずかな守備兵と共に籠城し援軍を待つという消極的な策を取るつもりでいた。

 しかし、そのいずれの道も危険極まりないことは確かで、途中、いつどこで誰が命を落としても不思議ではなかった。


 つまるところ――今この瞬間が、恋人同士リナとリューゴ今生こんじょうの別れになるのかもしれないのだ。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇



「ありがとうございました、ユウトさん」

 リューゴと話し終え、リナが僕に頭を下げた。 

「こんな時に、本当にすみませんでした」


「いえ、別に……」


 特にかける言葉はなかった。

 ここでリナを慰めることができるほど、僕はできた人間ではない。

 

「あの、ユウト君!」

 と、その時、リューゴが僕に話しかけてきた。

 

「……はい、何か?」


「この先どうか彼女の――リナ殿ことを頼みます。私はそばにいてやれないので」


 ああ、そういうことか。

 そんなのこの男に頼まれなくとも――


「もちろんです」

 僕は力強く答えた。

「リナ様のことは絶対に守ってみせます」


「そうですか。ユウト君がそう言ってくれると頼もしい」

 と、リューゴは安心したように笑みを浮かべる。


 だがその時、会話を聞いていたリナの顔に一抹の不安の影がよぎったことを、僕は知らなかった。

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