(5)

 僕はいち早く岩山を下り、枯れ木につないである三頭の馬の元へ走った。

 その後をグリモ男爵、マティアス、リナが追いかけてきた。


「ちょ、ちょ、ちょっとユウちゃん!」

 男爵がゼーゼー息を切らしながら言った。

「いきなり駆け出して、いったいどういうつもり?」


「言うまでもなくみんなを助けに行くんです! 手遅れにならないうちに! 僕たちはそれが目的でここへ戻って来たんでしょう?」


「んもぉ! だからって焦りは禁物よ!」

 男爵が僕をとがめるように叫んだ。

「ユウちゃん! ナニをするんでもせっかちな男ってレディからは嫌われるのよ!」


「男爵様、冗談は止めてください。今は一刻を争う時です。リナ様どうか馬を――」


「いや待てユウト。グリモの言う通りだ」

 ところが、マティアスまでも僕をたしなめて言った。

「いくら敵の本隊は撤退したとはいえ、こちらはたったの四人だ。いま突っ込んでいくのはまったくの無謀、匹夫ひっぷの勇というものだろう」


「まってください」

 僕はムキになって反論した。

「もちろん僕にも考えがあります。『ミスト』の魔法を使うんです。濃い霧で敵の目をあざむいてみんなを救うのです」

 

 ここに来る途中、そのことはずっと考えていた。   

 効果範囲が狭すぎて昨日は使うのを断念した『ミスト』の魔法。

 が、その欠点をおぎなう方法を僕はすでに思い付いていた。

 

「ただ『ミスト』の霧は限定的な範囲にしか出せないんです。そこで――」

 と、僕は三人にざっくりと説明した。

「連続して魔法を唱えるというのはどうでしょうか? つまり遠巻きにリナ様に敵をぐるりと取り囲むよう馬を走らせてもらって、その間、僕が馬の上から『ミスト』の魔法を何度も唱えれば――」


「なるほど!」 

 リナがうなずく。

「煙幕で敵を巻くような感じですね」


「ええそうです! 背後から奇襲をかけるような感じでいきます」


 この作戦でもリナの身に多少の危険がないとは言えない。が、敵から一定距離を取ればまず大丈夫だろう。

 それに万一の時でも、今までのように僕が魔法でリナを守ればいい。


 しかし――


「ダメ! それじゃダメダメよ!」

 男爵が甲高い声で叫んだ。


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