(6)
「よーく考えてみて」
男爵は真剣な眼差しで僕に問いかける。
「仮に魔法の霧でみんなを包んだとしましょう。でもその後でアタシたちはいったいどうすればいいのよ?」
「え……」
「つまり霧のせいで周囲がなーんにも見えない状況で、その中から数百もの兵士をどうやって救い出すかってことよ。中にはケガをしている人もいるでしょうに」
「そ、それは……」
「いい? こちらはたった四人なのよ。それに敵さんだって霧が出た程度じゃあ引き下がってくれないんじゃない?」
僕は言葉に詰まった。
まったく男爵の言う通りだったからだ。
いざ霧で敵の目をくらましても、その後どうするかをちゃんと考えておかなければ、にっちもさっちもいかなくなる。
それは昨日の時点で分かっていたはずなのに、焦りのあまりつい先走ってしまった。
「おっしゃる通りです。……正直言って、僕にもそれ以上、何も思いつかないんです」
「仕方ないわねぇ!」
僕の困った様子を見て、男爵が叫ぶ。
「ユウちゃん、ちょっと待ってなさい! ロードラントの天才軍師ことあたくしグリモ男爵が、知恵の限りを尽くしてみんなを無事に助ける作戦を考えてみせるから」
男爵はそう言うと、大きな目をぴったり閉じ左右のこめかみに指を当てた。
どうやらこれが男爵がものを考える時のポーズらしい。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
そらから数分。
相変わらず男爵は目をつぶって考え込んだままだ。
何もできないまま、ただ時間だけが過ぎていく。
今もエリックたちは助けを待って戦い続けているのに、このまま本当に男爵に任せておいて本当に大丈夫なのか?
そう思うと焦燥感のみが募って、体がじりじりする。
いくらなんでも、そろそろ我慢の限界だ。
ええい、自分には白魔法の力がある!
こうなったらたとえ一人でもエリックたちを助けに行く!
僕は覚悟を決めた。
男爵は放っておいて、みんなが待つ草原のはずれを目指し、一歩前へ踏み出したのだ。
ところがその時――
向こうに見える大きな岩の影から、こちらにやって来る複数の人と馬の気配がした。
まずい……。
よりによってこんな時に敵か。
しかもこの位置だと、逃げ場がどこにもない。
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