(9)

「お待たせいたしました。本来お客様にはベッドの上で召し上がっていただくのですが、ユウト様はお急ぎのようなので、こちらにに御用意いたしました」

 ロゼットはそう言ってから、テーブルの中央に置かれたお皿の蓋を取った。


 うわっ! 

 な、なんだこれ……!! 


 皿の上に乗っているものを見て、僕は思わず身を引いてしまう。


「当デュロワ城の名物、クロミスのソテーでございます」

 と、ロゼットが解説する。


 確かにそれは魚の切り身っぽい形をしていた。

 でも光っている。

 しかも七色に、キラキラと。


 この魚?が男爵の大好物のクロミスの塩焼きなのか。

 何とも異世界らしい食べ物にだが、決して食欲をそそる見た目ではない。


 とはいえ、ロゼットが見ている手前食べないわけにはいかないだろう。

 そうしないと、城の外に出られそうにないし……。


 僕はナイフとフォークを手に取り、クロミスの一端を切って恐る恐る口に運んだ。


 その瞬間――


「おおー! おいしい!」

 僕はあまりの美味しさに目を丸くして叫んでしまった。


 クロミスは確かに魚の一種ではあるのだろう。

 が、食感は柔らかくてふわふわして、口に入れた瞬間にスッととけてしまう。

 そしてその味は、現実世界では味わったことのない、舌の味覚神経に直接作用するような陶酔感のある摩訶不思議な甘さがあった。


 ヤバい。

 ヤバい味だ、これは。


 こんなおいしいものをの食べ続けたら、そのうち中毒になってしまい他の食べ物を受け付けなくなってしまうかもしれない。

 それぐらい美味なのだ。


「お口に合ったようでなによりです」


 ロゼットが表情一つ変えず、給仕をしながら言った。

 が、僕は返事もせず、出された朝食を夢中で平らげた。


 そういえば昨日の昼、戦いが始まる前にロードラント軍から配られた果物とパンを食べて以来、何も口にしていなかったっけ。


 それにしては空腹を感じることはなかったが――

 とにかく今は食事を取ったおかげで、全身から力が漲ってきくるのを感じた。

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