(8)

「もちろんご要望がありましたら何なりとおっしゃってください」

 と、ロゼットはやや慇懃無礼いんぎんぶれい気味に言った。

「ユウト様のご意向とあれば、たとえそれがどんな内容であっても従いたいと存じます。ただし、ご朝食だけはどうしても召し上がっていただきます」


 ロゼットは真面目一辺倒で融通がきかないタイプらしい。

 僕はそんな彼女にイラつき、つい余計なことを口走ってしまった。


「へえー、僕の言うことなら何でも聞いてくれるんですか?」


「はい、ユウト様がお望みであれば」


「じゃあロゼットさん、この場で、今すぐ、そのメイド服を脱いで裸になれます?」


 あ……!


 言ってから、しまった! と、思った。

 服を脱げと強要するなんて正真正銘のセクハラ。現実世界なら犯罪だ。


 男爵バロンの城で時を過ごすうちに、どうやら頭がおかしくなってしまったらしい。

 魔が差した……そう、魔が差したとしか言いようがない!


 ところがロゼットは――


「かしこまりました」


 と言って、嫌な顔もせずメイドエプロンをはらりと脱ぎすてた。

 そして、まるでメイドの仕事をこなすようにテキパキと服のボタンを外し始めたのだ。


「わーー! ま、待って下さい! 冗談です、冗談!」

 僕は慌てて大声でロゼットを止めた。


 うーん、まいった。

 ロゼットは一筋縄ではいかない、何ともやりにくい相手だ。 

 こうなったらさっさと朝ごはんを食べてしまった方が、早く次の行動に移れるかもしれない。


「わかりました。食べます! 食べますよ」

 僕は諦めてロゼットに言った。

「でも食堂に行く時間が惜しいので、ここでお願いします」


 ロゼットはそれを聞き、かすかにほほ笑んで言った。


「では、すぐにお持ちします」


 ロゼットはお辞儀をしてからいったん部屋を出ると、すぐに朝食ののったワゴンをカチャカチャと運んできた。

 それから慣れた手つきで、幾つかの食器をテーブルの上に美しく配膳した。


 朝食のメニューはというと、丸パンにポタージュスープにコーヒーとごく平凡。

 ただ、テーブルの中央に置かれたドーム蓋つきの皿は別だった。


 なんだろう、これ……。

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