(10)

「ロゼットさん、ありがとうごさいました。やっぱり朝食を取ってよかったです。じゃあ、ちょっと出かけてきますね。すみませんが後片付けお願いします」


 すっかり気分の良くなった僕は、そう言って勢いよく立ち上がりドアへと向かった。


「ユウト様、お待ちっください!」


 ロゼットが何か言うのが聞こえたが、その前に僕は部屋を出てしまった。

 図々しいかもしれないが、これ以上ここで時間をロスしたくなかったからだ。


 けれど――


「あ、あれ?」


 そこには長い長い廊下が続いていた。

 その上、ドアや扉が幾つも見える。が、外部に直接つながるような出口は見当たらない。

 城が広すぎて外に出られないなんて、思わぬ落とし穴だ。


「ユウト様」

 と、そこでロゼットが部屋の中から出てきて、僕に声をかけた。

「よろしければデュロワ城正門までご案内いたしましょうか?」


 完璧なメイドであるロゼットは、いま僕が必要としていることは何か、言わなくともすべてわかっているのだ。


「デュロワ城はそもそも国境の守備の拠点として築かれた堅牢な要塞。万が一敵の侵入を許しても簡単には落ちないよう、内部は相当複雑な構造になっております」


 ロゼットに案内を頼んだ僕は、彼女の解説を聞きながら、まるで迷宮のようなお城の中を出口へ向って進んだ。

 幾つもの部屋や廊下を抜け階段を上ったり下がったり。

 昨晩来た進路を戻っているだけのはずなのに、ロゼットがいなければ確実に迷子になっていただろう。


「あの、ロゼットさん」

 僕は御影石の廊下を歩きながら、朝から気になっていたことを尋ねた。

「アリス様は、あの後どうされましたか?」


「すぐに落ち着きを取り戻されて、部屋でお休みになられました」

 ロゼットは明瞭かつ簡潔に答えた。

「しかし今朝になっても熱はまだ下がらず、今も眠っておられます。リゼットが看ておりますので心配はありませんが、回復するにはもう二、三日の休養が必要かと存じます」


 リゼット――ティルファの部屋にいたもう一人メイドか。

 ロゼットとは名前も顔も似ているし、二人は姉妹かな?


 いずれにせよ、グリモ男爵が選んだ使用人なら安心してアリスを任せておける。

 そして、このデュロワ城にいる限り、アリスは危険なくゆっくりと休めるはずだ。

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