(12)
しかしこのグリモ男爵、下ネタ大好きのおちゃらけたオネエな貴族にしか見えなかったけれど、実は国の将来を真剣に考える真面目で優秀な人なのかもしれない。
「何よりも――」
と、男爵は語気を強めて言った。
「戦争は多くの犠牲者を出すことをお忘れなく。勝敗の裏で決まって泣くのは、か弱い子供や女たちです! まったく男って生き物は! 暴力的で乱暴で! ホントにやんなっちゃいますわ!」
「バカ! それを私に言ってどうする!」
アリスが当たり前の反論をする。
「私は女だ!」
さらに付け加えれば、男爵、あなたの性別は男でしょう!
――という突っ込みもできないくらい、場の空気はピリピリしてしまっていた。
そんな険悪な雰囲気の中、シスターマリアがぽつりとつぶやいた。
「この部屋の中にも、戦争の犠牲者が一人……」
「なんだと!」
それを聞いたアリスの顔色が、さっと青ざめる。
「まさか! シスター、中に入るぞ!」
アリスが男爵を押しのけ癒しの部屋の中に飛び込むと、次の瞬間――
「キャ――――――」
尋常ではない女の人の叫び声が聞こえた。
びっくりして、僕も慌て部屋に入る。
そこで僕が見たものとは……。
父であるヴィクトル将軍を惨殺され、自身も逃げる際に瀕死の重傷を負い、その心的外傷から精神が完全に崩壊してしまった女騎士、ティルファの変わり果てた姿だった。
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