(11)

 憤懣ふんまんやる方ない様子の男爵に、アリスが言った。


「すまなかった、グリモ。お前には事の次第をまだ説明していなかったな。シスターマリアがずっと黙っていたのは、万が一敵に情報が漏れることを心配をしたからだろう。すなわち彼女に非はない」


「いいえ、そんなこと気にしちゃいませんわ。シスターが沈黙を貫いたことは当然理解できます。むしろ賞賛に値するぐらいです」


「では、なぜそうカッカする?」


「それはもちろん、ロードラント王国がいまだ無益な戦いを繰り返していることに対してですわ。しかも小競り合いどころではない、大きな戦争を! ――アリス様、アタクシが昔、口を酸っぱくして申し上げたことを覚えておいでですか?」 


「……なんだ、久しぶりにその説教をするのか」


「ええ、そうですとも! 戦争という愚行はこの世に何も生み出さない。勝っても負けても、最終的には得るものより失うものの方がずっと大きいという単純明快な理論です。そして戦争は、国を、人々を、やがて滅びへの道へと導くのですわ」


「相変わらずな綺麗事を断定的に言うな、グリモ。悪いが私はその一方的な極論には首肯しゅこうしかねるぞ」


「ヤダわ、綺麗事だなんて……アリス様ったら、あくまで真実から目を背けなさるのおつもりなのね。――ねえアリス様、まさか忘れてやしませんわよね。王国の財政が破たん寸前にまでなったのは、長期に渡る戦争により多大な戦費がかさんだためだということを。まさにそれが一つのよい例ですわ!」


「そんなことは分かっている! が、中には避けられぬ戦いもあるのだ! この度の戦争も、反乱を起こし戦いを挑んできたのはイーザ族の側だ!」


「いいえ! こんな事態に陥る前に、そもそも反乱を起こさせないような施策を取ることが王国には出来たはずですわ! 政治も外交もアタクシが中央にいたころよりも大きく劣化しているとしか思えません!」


「つまりお前ならこんなヘマをしないとういうことか。たいした自信だな、グリモ!」


 アリスと男爵は突然戦争論議に火花を散らし始めた。 

 今はそんなことで言い争いをしている場合ではないと思うが――


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