(10)

「おっしゃる通りですアリス様。この度のいくさ、もはやイーザという一部族が起こした反乱で片付けられる話ではありません」

 と、シスターマリアが相づちを打つ。

「おそらく背後でもっと大きな力が動いているかと」


「……ゴートか」


 どうやらアリスも、裏で糸を引いているゴート帝国の存在に気付いたようだ。

 そういえば森の中でヒルダと戦っている間アリスは気を失っていた。

 だからヒルダがゴートの手先だということも、アリスは知らないのだ。

 そこら辺の経緯を、後でアリスに説明しなくては。


「それはともかく――」

 アリスがシスターマリアに続いて訊いた。

「シスターたちはどうやってこのデュロワ城に辿りついたのだ? ここは王国領土の果ての果てだぞ」 


「ええ、アリス様。その後私たちは急ぎコノート城から離れましたが、途中で何度か敵の襲撃にあい完全に道を失ってしまいた。ところが、この地域一帯は私の所属する教会の教区。私自身、過去に近隣の町を訪れたことがあって土地勘があったのです」


「そうか。それはまた幸運だったな」


「はい、すべては神の御導きだと思っております。その上で困っている私たちを助けて下さったグリモ男爵様には感謝の言葉もありません。――あの、それで、アリス様はいったいあれからどうなされたのですか? 他の皆さまはご無事でしょうか?」


「いや、残念だが……」

 アリスが力のない声で、自嘲じちょう気味に言う。

「あの後イーザ側と大規模な戦闘が起こり、数えきれないほどの犠牲を出し、さらに多くの仲間を敵中に残してきてしまった。つまり私だけが命からがらこの城へ逃げ延びたというわけだ。まったく不甲斐ない。王の名代としては完全に失格だな」


「ふーん、そういうことだったの」


 と、そこで、二人の会話を黙って聞いていた男爵が、苛立って口を挟んだ。


「シスターは何も話してはくれなかったけれど、だいたいの事情は呑み込めたわ。やっぱり戦い――戦争なのね!」



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