(15)

 男爵の顔色がサッと変わった。

 リナをにらみ付け、叫ぶ。


「あらまあらまアラマ! 今の発言、ちょっと許せないわねぇ。ニセモノ王女様、もしアンタがお子さまじゃなかったら、ただちに愛の鞭打ち100回の刑に処してるところよ!」


「は、はぁ!?」


「いい? アタシがアンタに教えてあげる。愛ってものに定義はないの! 相手が男であれ女であれ、人を愛し愛されるってことは限りなく尊いことなの! なのにアンタは! まるで変人を見るような目をして! ほんと失礼しちゃう!」


「で、でも……」

 リナは男爵に押されタジタジしてる。


「それに男×女でも男×男でも最終的にヤることは一緒よ! そこに大した違いはないわ! あ! 体の構造上、女×女だとちょっとそれをするのは難しいかもしれないけどさ」


 そう言って男爵はホホホ、と笑い、リナの顔は熟したリンゴのようにますます赤くなる。 


 ……それにしても下品すぎる。

 この男爵、まともな貴族とはとても思えない。

 リナに助け船を出してあげたいけど、とても僕の手には負える相手ではなさそうだ。


 だけど一方で――


 男爵は不思議といやらしい人という感じはしなかった。

 陽気なキャラクターと明るい人柄のおかげか? 

 暴走気味に下ネタを連発しても、さっぱりしていて不快ではないのだ。


「……そこまでにしておけ、グリモ」

 が、マティアスは今にも死にそうな顔をして言った。

「リナ殿にそれ以上恥ずかしい思いをさせるな」


「あら、マティアス、観念して答える気になった?」


「……ナナジュウニカイ、だ」


「ダメよ。声が小さくて聞こえない」


「七十二回だ!」

 男爵にのせられ、マティアスは必要以上に大声を上げてしまう。


「まあ!」

 それを聞いた男爵の顔に、パッと喜色があふれた。

「ちゃーんと覚えておいてくれたのね! ウレシイ! うれしすぎるわ! 几帳面なその性格、変わってないみたい!」


 敵がすぐそこまで迫っているというのに、いったい僕たちは何をやっているんだろう……。


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