(14)

「知ってる。結婚して子供も生まれ軍の中でも出世街道を邁進まいしん中――そのことは風の便りに聞いたわ……」

 と、男爵は切なそうに言った。

「でもね、別にアタシは今さらあなたと寄りを戻したいわけじゃなくってよ。だから安心なさい。昔の恋愛バナシをすることに何ら罪悪感を感じることないわ」


「そ、そういう問題ではない!」


「じゃあいいじゃない。ほらほら、早く答えないと敵に追いつかれちゃうわよ」


「グリモ、これがお前流の意趣返しか……」


 マティアスがうめいた。

 なんだか戦いで瀕死の重傷を負った時よりつらそうだ。


「あらぁ、復讐だなんて人聞きの悪いわ。単純に面白い質問かな? と思っただけよ。アタシはいつでも皆様に愛されるエンターテイナーでありたいから。――ねえねえ、そっちのお子チェリーちゃんたち!」

 男爵が、ドン引きしている僕とリナに向かって言った。

「特にアンタたちみたいに若い子はこの手の話って興味シンシンでしょう」


「シ、シンシンなんかじゃありません!」

 リナが顔を真っ赤にして叫ぶ。


「ーん無理しちゃって。――あ、それともお子ちゃまには質問の意味がわからなかったかしら? ”熱い夜を過ごす”ってことはね、要するに、アタシとマティアスが付き合っているころ何回エッチしたかって意味よ!」


「わ、わかりますよっ。それぐらい!」

 リナはムキになって言い返す。 

「でも、それはヘンです! おかしいです! ……お、男同士でそんなことするなんてまともじゃありません! ま、まさか竜騎士団の副隊長であるマティアスさんがそっち系の人とは思いませんでした……」


 この切羽詰まった状況でのグリモ男爵のセクハラ発言。

 リナが怒るのは当然とはいえ、しかし、彼女の言葉にも鋭い棘があった。

 異世界といえども、やっぱり同性愛に対する風当たりと偏見は強いらしい。


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