(2)

 そうこうするうちに、僕たちはデュロワ城の城門前に到着した。


 城は平坦な場所に建っていたが、周囲はぐるりと堀で囲まれ、木と鉄でできた立派な跳ね橋は城門の方へ上がっていた。

 当然このままでは中には入れないので、マティアスが前へ出て、城壁に向かって大声で叫んだ。


「デュロワ城の衛兵よ、跳ね橋をおろし門を開けよ! 我々は王室直属の近衛竜騎士団、私はその副隊長マティアスだ!」


 ……まったく反応がない。

 城はシンと静まりかえっている。


「おい、聞こえないのか! 早く門を開けよ」


 マティアスの声に反応して、ようやく衛兵らしい人影が城壁の上に見えた。

 それからいかにも面倒くさそうにこちらを覗き込み、乱暴な口調で言い返した。


「なんだよ、うるせーな。誰だおめーらは」


「貴様、その口の聞き方は何だ!」

 マティアスが怒鳴った。

「アリス王女様も我々とご一緒であらせられるのだぞ! 一刻も早く城の跳ね橋を下ろして中に入れろ!」


 いつもの用心深いマティアスなら、万が一の時のことを考え、こここでアリスの名前を出すことはしなかったはずだ。

 が、背後からいつ追っ手が現れるかもしれないという焦りと、さっきリナが口にした“グリモ男爵”の名が、その判断力を大きく狂わせたのだ。


 ――いったいマティアスはどうしてしまったのだろう?


 普段のマティアスらしくない神経過敏でピリピリした様子に、僕はただ困惑するしかなかった。

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