第十八章 バロンの城

(1)

 森を抜けるといきなり視界が開け、広い岩場に出た。


 夜も更けてきたというのに辺りは不思議と明るい。

 なぜだろうと思い空を見上げると、そこには現実世界にはない、無窮むきゅうの星々が光の洪水のように輝いていたのだった。


 が、いくら美しい星空でも、その光景に感動している余裕はない。

 竜騎士団はまばゆいまでの星明りを頼りに、ゴツゴツした岩場の夜道をひたすら走り続けた。


 それからさらに三十分ほど――

 景色は山と山に挟まれた渓谷へと変化し、流れの速い川が見えてきた。


 身も心も疲れ果て誰もが無言。

 衰え知らずの竜騎士の乗る駿馬しゅんめすら息切れをおこし始めたころ、リナが叫んだ。


「ユウトさん、あれです! あれがデュロワ城です!」


 夢でも幻でもない。

 渓谷を出た先に、巨大な城壁に囲まれた白い城がそびえ立っているのが見えた。

 かがり火によってライトアップされたその姿は、ファンタジーの世界そのもの。

 非常に壮麗な外観だ。


 しかし――あれ?

 と、僕は少し変に思ってリナ尋ねた。


「あの、リナ様。デュロワ城って確か廃城寸前のさびれたお城だったのでは? それにしては綺麗すぎるような気がしますが……」


「そう言えばそうですね。私も訪れるのは初めてですが――」

 リナも訝しんで言った。

「こんな立派なお城とは思いませんでした」


「ああ、それなら――」

 僕たちの会話を横で聞いていたマティアスが言った。

「取り立てて心配することはない」


「そうでしょうか? ――ええと、このお城を治めているのは誰でしたっけ?」

 と、リナは必死に城主の名前を思い出そうとする。


「……行けばわかる」

 

 マティアスが仏頂面でそう答えた時、リナが叫んだ。


「そうだ! グリモ男爵! ここは男爵の城です!!」


 ところが――

 

「その名を出すな!!」

 

 グリモ男爵の名前を聞いた途端、突然マティアスが切れたのだった。 

 僕もリナもびっくりして、思わずマティアスの顔を見る。


「し、失礼した!」

 マティアスが慌てて取り繕う。

「不快な名を聞いたものだから、つい」


 どうやら触れてはいけないことに触れてしまったらしい。

 僕もリナもそれを察し、デュロワ城の城主の話題はそこで打ち切られた。

 

 マティアスの豹変ぶりには驚いたが、とにかく、デュロワ城に何かの罠が潜んでいることはなさそうだ。 




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