(12)

 僕たちはそれから、気を失ったままのアリスにもう一度鎧を着せた。

 目的地であるデュロワ城は間近とはいえ、まだどんな危険が潜んでいるかわからない。

 ここはあえてアリスを目覚めさせず先を急いだ方がよい、というマティアスの判断に従ったのだ。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 森の中はすでに完全に夜の闇に包まれていた。


 こんな不気味な場所に長居は無用。

 木々のこずえから漏れてくる青い月の光を頼りに、僕たちは全員大急ぎで出立の準備を整えた。

 だが、イーザ軍の追っ手がいつ現れるか分からないため、戦死した竜騎士を葬る時間はなかった。


 リナはそれが心苦しかったらしい。

 森を出る前、みんなに一つ提案をした。


「亡くなられた方々のため、せめてお祈りを捧げましょう」


 もちろん誰も異存はない。

 マティアスをはじめそこにいる全員が目をつぶり、静かに黙とうをする。


 ――が、それもほんの10秒ほどの間。

 これでは大した供養にもならない。

 単なる自己満足だ。


「よし、先を急ぐぞ!」

 と、マティアスが叫んだ。

「もう一息の辛抱だ」


 竜騎士たちはみな切り替えが早い。命令に従い次々馬を走らせる。

 昼間、次々倒れていく仲間たちを見て錯乱したリナでさえ、今は涙一滴流さない。


 僕は何ともやるせない気持ちになって、リナの馬に揺られながらも、うしろを振り返った。

 そこには、竜騎士の死体が誰にも顧みられることなく点々と転がっていた。


 ――ああいう風な死に方はしたくない。

 

 悲惨な光景を目の当たりにし、そんな感情が自然と湧いてきてしまう。

 現実世界での自分は、電車に飛び込んで自殺しようとしていたのに……。


 この異世界に来て、なぜこんな心境の変化が起こったのか――

 何だか自分で自分がよく分からなくなってきた。



 

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