(11)

「そこにいるのは……ユウトか?」

 アリスがつぶやいた。


「はい、ユウトです。アリス様、どうなされたのですか?」


「ユウト……コワい」


「え、怖い? なにがですか?」


「……アンデッド」


「え! アンデッドが怖い? 」


「………………」

 アリスはコクンと小さくうなずき、また気を失ってしまった。


 ――ああ、そういうことか!


 そこで僕は突然思い出した。

 昼間、アリスのステータスを『スキャン』の魔法で調べた時のことを。


「あの……」

 僕はアリスにずっと付き添っていた竜騎士に尋ねた。

「アリス様が大人しくなったのって、アンデッドが現れてからだと言ってましたよね」


「うむ、その通りだ」


 やっぱりそうか。

 スマホに表示されたアリスのステータスには、確かに、


 弱点:ゴースト アンデッド


 と、あった。


 これで納得。

 そっち系を苦手とする人が、あれだけの数のアンデッドを目にしたら、いきなり卒倒してしまってもおかしくないだろう。


 それにしても気高い王女アリスにこんな弱点があったとは。

 実は中身は普通の娘だったというか、案外子どもっぽい部分もあるというか――

 

 アリスの意外な一面を知って、なんだか急に笑いがこみあげてきた。


「どうしたというのだ、ユウト。なぜ笑う」


 マティアスが怪訝けげんそうに眉をひそめる。


「いえ――あの、アリス様はまったく心配いりません。一時的に気を失っているだけです」


「本当か?」

 マティアスが首をひねる。 

「しかし原因は? 私は今までアリス様のこんなご様子見たことないぞ」


「それは――」

 僕はマティアスに簡単に事情を説明した。


「ハハハ、そういうことだったのか」


 話を聞いたマティアスが苦笑する。

 それにつられて、他の竜騎士も吹き出しそうになった。


 みんなアリスをバカにしているわけではない。

 ヒルダを激闘の末かろうじて退けたこと、そしてアリスが無事だったという安堵感から、自然に発生した笑いなのだ。


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