(7)

「え!? いや、それは……」


「何をためらう! ロードラント王国の禍根を取り除く千載一遇の機会チャンスなのだぞ!」


 確かにヒルダは、魔力をすぐ回復させてしまうかもしれない。

 RPG的に考えれば、宿屋に泊るとか、アイテムを使うとか――この異世界にだって、何らかの方法はあるはずだ。


 もしそうやってヒルダが復活すれば、ロードラント軍にとって脅威だ。

 さらにヒルダは、再びアリスを執拗しつように付け狙ってくるだろう。


 しかし、それが分かった上でなお、僕にはヒルダ≒日向先生を殺すことはできない。


「ユウト、なにをボケッとしている!」

 マティアスが腹立たしげに叫んだ。

「ええい、竜騎士たちよ、ヒルダを討て! 魔女の首を取ってロードラントに持ち帰るぞ!」


「ウオオオオオ――!!」


 ここぞとばかりに竜騎士たちが馬を走らせ、ヒルダに殺到する。

 みんな多くの仲間を殺され、恨み骨髄こつずいに入っているのだ。


「ま、待ってください!」


 どうしよう。

 このままだと日向先生――いやヒルダが滅多切りのなますになってしまう。

 そんな光景、絶対に見たくない。


 と、その時――


「待ちなさい!!」


 シャノンの鋭い声が飛び、竜騎士たちは慌てて馬を止めた。

 ヒルダを誅殺することのみに気を取られ、シャノンというもう一人の敵が健在だということをすっかり忘れていたのだ。


 竜騎士がひるんだ隙に、シャノンはヒルダに素早く近寄った。

 それからうずくまるヒルダを軽々抱きかかえた。


「ヒルダ、まったく情けない姿ね! 粗相までして!」


 シャノンは失禁を気にも留めないヒルダを見てあきれたようにつぶくと、僕の方を向いてフッと笑った。


「こんなサイテーのやつでも一応私の雇い主だから、放っておくわけにもいかない。わかるでしょう?」


「ええ……まあ」


 僕たちと一緒に、あやうく『アストラル』に吸い込まれそうになったのに、まだヒルダを守り続けるつもりなのか。

 職務に忠実なのは感心なことなのだろうけど、シャノンは肝心の主人選びを間違っているような気がする……。


「あ、あの――」


 そのことについてシャノンに忠告したかったが、うまい言葉が思い付かない。

 そもそも僕は人に偉そうなことを言うのは苦手なのだ。


「ゴメン、今キミとゆっくり話している暇はなさそう。でもキミの戦い方、なかなか良かった。――また近々会うこともあるかもしれないから、それまで死なないでね。じゃあ、バイバイ!」


 シャノンはそう言い残すと、ヒルダをお姫様抱っこしたままパッと跳躍し、森の中にまぎれ込んでしまった。


 まさに電光石火の早業だ。


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