(6)

 現実世界でそういう衝撃的な出来事があったからこそ、僕はヒルダの素顔を絶対に確かめたかったのだ。


 ――そして、異世界。


 見てはいけないものを見る気分になりながらも、僕は意を決し、ヒルダのマスクをはぎ取った。


 そこに現われたのは――


日向ひなた先生……」


 紛れもなく高校の保険の先生、日向ひなたルイ子その人だった。

 異世界で見ても美しい人ではあるが、化粧が濃いのとケバケバしい雰囲気は相変わらずだ。

 そっくりなのは顔だけではない。

 きつい性格とか、男よりも女に興味があるという性的指向も現実世界の日向先生とぴったりと一致している。


 が、どうもおかしい――

 僕は地面にしゃがみ込んだヒルダを見下ろし、ふと思った。


 異世界と現実世界。

 清家せいけセリカの話によれば、この二つの世界は平行パラレルな関係にあり、遠く離れた次元にそれぞれ存在しているはず。

 なのに僕は転移した早々、立て続けに“七瀬理奈リナ”と“日向ルイ子ヒルダ”という現実世界での知り合いに出会ってしまった。


 それっていくらなんでも偶然すぎやしないか?


 疑念を抱いた僕は、ためしに学校でいるような感覚で魔女ヒルダに呼びかけてみることにした。

 シャノンにばれないよう、小声でだ。


「先生、わかりますか? 有川です。1-Cの有川優斗です」


「………………」


 が、ヒルダはまったく反応しない。

 ただボーっとくうを見つめている。


 うーん……。


 魔力ゼロになり我を失ったとはいえこの無反応ぶり、やっぱりヒルダに現実世界の記憶はないのか?

 それとも日向先生とヒルダはまったくの別人格なのか?


 もしかしたらヒルダ(日向先生)も、僕と同じく、セリカによって現実世界からこの異世界に転移させられたのかもしないと考えたのだが――


 結局何もわからずじまいだ。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 でもとにかく、ヒルダを殺さないで済んだのは本当によかった。

 ヒルダ≒日向先生を、万が一殺あやめてしまっていたら後味が悪いどころではなかった。 

 たぶんショックで一生立ち直れなかっただろう。


 ところが――

 

 それはあくまで僕の個人的な感想。

 ヒルダとの戦いの行方を見守っていた人たちは、そうは思わなかったのだ。


「今だ! ユウト、魔女を仕留めろ!!」


 と、叫んだのはマティアスだった。

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