(5)

 カーテンの裏で行われていることは、どこからどう見ても“秘め事”。

 しかも女性同士の……。


 まずい、まずい、まずい!!

 やっぱり自分はこの場にいてはいけない、招かれざる客だったのだ。


 焦りまくった僕は一刻も早くここから立ち去ろうと二、三歩後ずさった。

 が、ここは慣れない保健室。

「ドン」と派手な音を立ててデスクにぶつかってしまった。


「誰だっ!?」

 鋭い声がして、シャッとカーテンが引かれた。


 予想通り――そこに立っていたのは日向先生だった。

 そしてベッドに寝ているのはポニーテールの可愛いめの女子生徒。


 しかも先生の髪は乱れ、白衣は半分脱げかかっていた。

 一方の女子生徒は顔を赤くし、制服のブラウスのボタンは二、三個はずした、あられもない姿だ。


「あの……その……」

 見てはならないものを見てしまい、僕はしどろもどろになった。


「1-C有川!!」


 先生は鬼のような恐ろしい形相で怒鳴った。

 ちょうど激昂した魔女ヒルダのように。


「ノックもしないで入ってくるなと言っただろうがっ――!!」 


「す、すみません!」

 僕はそう叫んで、もつれる足で保健室を飛び出した。


 ――まさか、まさか学校の中で教師と生徒が!


 いやいや、そのこと自体はたまに事件になって報道されるから、案外珍くもないのかもしれない。

 が、大抵は男性教師と女子生徒の組み合わせだろう。


 一方、僕が目撃してしまったのは女性教師と女子生徒のペア。

 にわかには信じがたい、しかし紛れもない事実。


 ありえない、と思った日向ひなた先生の噂――

 その半分は本当だったのだ。



 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 ショックのあまり頭が真っ白になった僕は、教室に戻る気になれず、そのまま学校を出て家に帰った。

 おまけに帰る途中で雨でずぶ濡れになって風邪をひき、一週間ほど寝込むはめになってしまった。


 僕が学校を長期間休むようになったのは、それから後のことだ。

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