(14)

 しかし僕は、ヒルダが何を言おうが何を企もうが、意外と冷静でいられた。


 というのも、この『イビルバインド』による拘束は、魔法効果を打ち消す白魔法『ブレイク』で解除できる。

 そう踏んだからだ。


 そして体さえ自由になれば、後はこちらのペース。

 油断したヒルダが近づいてくるのを待って不意を突けばいい。

 それなら魔法で反撃される心配もないし、シャノンが介入してくる時間もないだろう。 


 ただし一つ、問題があった。

 しかも究極の。


 それはセフィーゼと戦った時と違い、ヒルダには剣による脅しなどまず効かないだろうということだ。

 つまり、やるなら一思ひとおもいにヒルダの急所を突き、殺すしかない。


 しかし――


 普段の理性を取り戻しつつある今の自分に、敵とはいえ女性を、ためらいなく一撃で倒すことなど可能なのか?

 いや、それ以前に“人を殺す”という最後の一線を越える覚悟が、自分の中に果たしてあるのか?


 そこだ。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇



「おい、キサマ!」

 ヒルダが僕に向かって吐き捨てるように言った。

「答える気がないのなら、ひとこと言っておこう。ワタシはキサマのような甘ったれた奴が死ぬほど嫌いだ!」


 甘ったれた奴?

 ヒルダにとっては、人を殺せない=甘ったれということらしい。


「キサマは回復者ヒーラーだろう? まったく回復者ヒーラーなんてやからは、いつも後方にいて偉ぶっている腐ったクズばかりだからな。キサマが安全地帯でのうのうとしている間、実際に戦い血を流しているのは誰か? 傷つき倒れていくのは誰か? キサマはそのことを今まで一度でも想像したたことがあるのか?」

 回復者ヒーラーに恨みでもあるのだろうか? ヒルダは憎しみのこもった声でまくし立ててくる。


 ヒルダの主張はまったくの言いがかりで、難癖に近い。

 けれど――その考え方にも一理あるのかもしれない。

 僕はそんな風にも思ってしまった。

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