(15)
なにしろこの戦いはゲームの世界の話ではない。
すべてが現実に起こっている、人と人との殺し合いなのだ。
なのに僕がやってきたことといえば、ただ魔法でケガ人を回復するだけ。
そこにずっと後ろめたさを感じていたのは事実だからだ。
ところが――
「それは違います!」
突然リナが叫んだ。
「その者は決して安全地帯にいたわけではありません。昼間の戦場でも危険をかえりみずハイオークと戦いみんなの命を救ってくれました」
「アリス王女、何を言い出すのです?」
と、ヒルダがアリスに扮したリナをにらむ。
「それよりあなたはどうなのですか? 顔を隠し昼間の戦いにも参加しないで、裏でこそこそ動き回っているだけではありませんか。その方がよほど卑怯な振る舞いでしょう!」
声はかすれているが、リナの態度は立派だった。
彼女は今なおアリス王女を演じることを忘れてはいない。
しかも僕を擁護してくれているのだ。
だが、さっきまでの甘い囁きとは打って変わって、リナ(アリス)に対するヒルダの返答は恐ろしく冷たかった。
「アリス様、どうか知ったような口を聞かないで下さいませ。例え王女様といえども言ってよい事と悪い事があるのです。卑怯な振る舞い? いいえ、ワタシは今まで
「だからといってなんだというのです! あなたが過去にどんなにつらい経験をしようとも、このような乱暴狼藉を働いてよい理由にはなりません。とにかく私はどうなってもいい、無益な人殺しは止め、みんなを助けてあげてください!」
「この状況でも身を挺して配下の兵士を庇う――さすがはロードラントの王女様、感心なことです。しかしながらその願いを聞き入れるわけにはまいりません。申し訳ないのですが少し黙っていただきます」
ヒルダがそう言って杖をわずかに動かすと、リナを拘束している魔法のリボンの一端がほどけた。
リボンは空中をヘビのようにうねうね動き、たちまちリナの口元に巻き付いてしまった。
「うう……」
と、リナが
「おい、止めろ!!」
口を塞がれ苦しそうなリナを見て、僕は声を上げた。
が、ヒルダはそんなこと気にも留めず、こちらに向き直り杖を両手に持って天高く掲げた。
「キサマらごときにこの魔法を使いたくはなかったのだが――」
突如、ヒルダが紫色に輝き始めた。
全神経を杖の先一点に集中させ、魔力をより高めているのだ。
「人知を超えた究極の闇魔法を見よ!」
ヒルダの魔力がぐんぐん上がっていく。
薄暗い森の中は、彼女のオーラによって、怪しく
そして――
『アストラル!!』
ヒルダが謎の呪文を詠唱した。
すると、森の木々のてっぺんのさらにその上、地上二十メートルほどの位置にぽっかりと穴が開いた。
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